ともの)” の例文
とものうて、京都のお養父上ちちうえにお目にかかり、かたがた青蓮院の師の君にもおとりなしを願うて、ひとまず弟の身を、家に帰してくれい
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
徳もなく不徳もなき有様なれども、のちにここに配偶を生じ、男女二人ににんあいとものうて同居するに至り、始めて道徳の要用を見出したり。
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
もし重盛しげもり命乞いのちごいをしなかったら、女や幼い者さえものがれることができなかったでしょう。奥方は若君とひめ君とをとものうて鞍馬くらまの奥に身をおかくしなされました。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
水仙は花にとものうて、通常は四枚、きわめてえたものは八枚の葉が出る。草質そうしつが厚く白緑色はくりょくしょくていしているが、毒分があるから、ニラなどのように食用にはならない。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
事業におけるも同じことであります。クロムウェルの事業とか、リビングストンの事業はたいへん利益がありますかわりに、またこれには害が一緒にとものうております。
後世への最大遺物 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
その要求に応じて二者が適宜に調諧ちょうかいして、甲の場合には自然主義六分ローマン主義四分というように時代及び場所の要求にとものうて、両者の完全なる調和を保つ所に、新ローマン主義を認める。
教育と文芸 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
衣服までことごと男生だんせいの如くによそおい、しかも学校へは女生ととものうて通いにき。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
「ご辺と友人のあいだならば、願うてもないこと、旅途を一日のばして、玄徳のために、その人を新野へとものうてはくれまいか」
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あたかも一生の苦労を二重にしたる姿となり、一人にして二人前の勤めを勤むるのせめに当たるは不利益なるが如くなれども、およそ人間世界において損益苦楽は常にあいとものうの約束にして
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
清盛きよもりはわしからすべての力をうばった。しかしこの力を奪うことはできないのだ。人間の魂魄の力がどれだけ強いか。わしはそれを知らせてやる。清盛を呪うてやる。ともに魔道にとものうてゆくぞ!
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
とものうて、ひとまず梁山泊へひきあげ、宋江そのほかの一統へ、首尾よく朱同を迎え入れたよしをご披露なすっておいたらどうか
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
明日あすか、明後日あさって、まいらば、十八公麿をとものうてござれ。それまでには、官のこと、一切、御印可をいただいておくが」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「駈け戻って、いまの老婆を、すぐ城へとものうて来い。自害せぬよう、眼をはなたず、やさしく、よういたわって」
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御辺ごへん、その男を台所へとものうて、飯なと食わせ、一室へ監禁して、誰にも会わせぬように始末しておけ」
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
処女おとめのほこりに消えようもない烙印やきいんを与えられた傷手いたでと——それにとものうて起るさまざまな精神的また生理上の動揺というものは、そう三日や四日で、易々やすやすえるものではない。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そちひとりは、遅れて甲府に入るも、さしつかえない。とものうてゆるりと、凱旋せよ」
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
安息にとものうてくる初老のきざしだ。この間に、時代は移ってゆく。後輩は先輩を乗りこえてゆく。若い、次の者が新しい道をひらいてゆく。——それでいいのだ。世の中は転変の間に進んでいるから。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
惣左そうざは、別間べつまか。彼女あれとものうて来た牧野惣左は」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「で、とものうて来たわけよな」
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)