いぬゐ)” の例文
いぬゐはう垣根かきねそばとき内儀かみさんは、垣根かきねつちいたところ力任ちからまかせにぼり/\とやぶつた。おつぎも兩手りやうてけてやぶつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
やがて彼は鉄鞭てつべん曳鳴ひきならして大路を右に出でしが、二町ばかりも行きて、いぬゐかたより狭き坂道の開きたるかどに来にける途端とたんに、風を帯びて馳下はせくだりたるくるま
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
文政十二年ぶんせいじふにねん三月二十一日さんぐわつにじふいちにち早朝さうてうより、いぬゐかぜはげしくて、さかりさくらみだし、花片はなびらとともに砂石させきばした。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
其へ、山国を出たばかりの堅塩かたしほ川—大和川—が行きあつて居るのだ。そこから、いぬゐの方へ、光りを照り返す平面が、幾つも列つて見えるのは、日下江くさかえ難波江なにはえなどの水面であらう。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
西の丸の北、いぬゐすみに京橋口が開いてゐる。此口の定番の詰所は門内の東側にある。定番米津が着任してをらぬので、山里丸加番土井が守つてゐる。大筒の数は大手と同じである。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
春のなかばにいたれば小雨ふる日あり、此時にいたれば晴天はもとより、雨にも風にも去年より積雪つもりたるゆきしだい/\にきゆるなり。されども家居いへゐなどはいぬゐに(北東の間)あたる方はきゆる事おそし。
十月の素袷すあはせ、平手で水つぱなを撫で上げ乍ら、突つかけ草履、前鼻緒がゆるんで、左の親指が少しまむしにはなつて居るものゝ、十手を後ろ腰に、刷毛先はけさきいぬゐの方を向いて、兎にも角にも、馬鹿な威勢です。
銭形平次捕物控:282 密室 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
「いぬゐ、つて、どんな字だつたかしら。方角のいぬゐだつたかな?」
津軽 (新字旧仮名) / 太宰治(著)
春のなかばにいたれば小雨ふる日あり、此時にいたれば晴天はもとより、雨にも風にも去年より積雪つもりたるゆきしだい/\にきゆるなり。されども家居いへゐなどはいぬゐに(北東の間)あたる方はきゆる事おそし。