中中なかなか)” の例文
けれども二人ふたりの問答は、其所そこくには、まだ中中なかなかあひだがあつた。代助はもう一遍ほかの方面から平岡の内部に触れて見た。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
みればあたりの水は濁り、ひっそりとして彼女のすがたは消え失せたのであったが、水面に浮んだ分の体がちらと光ったままで、かれの視覚にもつれついて中中なかなか離れなかった。
幻影の都市 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
また像をおほうて今は落葉おちばして居る一じゆ長春藤ちやうしゆんとうが枝を垂れて居た。ブリゲデイエ君に礼を云つて酒手さかてを遣らうとしたが中中なかなかかぶりを振つて受けない。西洋人としては珍らしい男である。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
が、おも硝子戸ガラスど中中なかなかおもふやうにあがらないらしい。あのひびだらけのほほいよいよあかくなつて、時時ときどき鼻洟はなをすすりこむおとが、ちひさないきれるこゑと一しよに、せはしなくみみへはひつてる。
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
なに、前借まへがりをしやうと云つたのだ。所が中中なかなかさない。僕にすと返さないと思つてゐる。しからん。僅か二十円ばかりかねだのに。いくら偉大なる暗闇くらやみいて遣つても信用しない。つまらない。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
馬来マレイ人やヒンヅ人が黒光くろびかりのするからだ黄巾赤帽くわうきんせきばういたゞき、赤味の勝つた腰巻サロンまとつて居る風采ふうさいは、極𤍠ごくねつの気候と、朱の色をした土と、常に新緑と嫩紅どんこうとを絶たない𤍠帯植物とに調和して中中なかなか悪くない。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
「われは中中なかなか力があるな」
トロッコ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
これを中中なかなか味よきものと私は覚え申しさふらひき。機関長の君の見舞に見え、欧洲より極東まで寝て通り給ふ君などとふうし給ひさふらふ。大阪の小野氏にこの船中にてしよ対面を遂げんとはゆめ思はざりしことにさふらふ
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
「もう、さうぢやありませんか。今日けふ中中なかなかきびしいですね」
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)