下立おりた)” の例文
夜陰にとどろく車ありて、一散にとばきたりけるが、焼場やけばきはとどまりて、ひらり下立おりたちし人は、ただちに鰐淵が跡の前に尋ね行きてあゆみとどめたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
雨強く風はげしく、戸をゆすり垣を動かす、物凄ものすさまじくるる夜なりしが、ずどんと音して、風の中より屋の棟に下立おりたつものあり。
一景話題 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かくして彼等くろずめる波を越えゆき、いまだかなたに下立おりたたぬまにこなたには既にあらたに集まれるむれあり 一一八—一二〇
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
黒いマントを着ていたが、下に下立おりたったところを見ると、それは外でもない千二少年であった。
火星兵団 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と言ふ/\、枝葉えだはにざわ/\と風を立てて、しかも、音もなく蘆の中に下立おりたつたのは、霧よりも濃い大山伏おおやまぶしの形相である。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ゆあみすれば、下立おりたちてあかを流し、出づるを待ちて浴衣ゆかたを着せ、鏡をすうるまで、お静は等閑なほざりならず手一つに扱ひて、数ならぬ女業をんなわざ効無かひなくも、身にかなはん程は貫一が為にと
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
これを見、彼を聞きたりし、伝内は何とかしけむ、つと身を起して土間に下立おりたち、ハヤ懸金かけがねに手を懸けつ。
琵琶伝 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼のせはしげに格子をあくるを待ちて、紳士は優然と内にらんとせしが、土間の一面に充満みちみちたる履物はきものつゑを立つべき地さへあらざるにためらへるを、彼はすかさず勤篤まめやか下立おりたちて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
大方おほかたくあらむと、したることとて、民子たみこあらかじ覺悟かくごしたから、茶店ちやみせ草鞋わらぢ穿いてたので、此處こゝ母衣ほろから姿すがたあらはし、山路やまぢゆき下立おりたつと、爪先つまさきしろうなる。
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
寮構りょうがまえへ踏込むのに、人住まぬ空屋以上に不気味だから、無造作に草履ばきでは下立おりたたないで、余程ものずきなのが、下駄のあくのを待って一人、二人ずつでないと、怪しい席へ入らなかった
露萩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「島野、」と呼懸けざま、飜然ひらり下立おりたったのは滝太郎である。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)