下火したび)” の例文
さあっ、大変じゃっ、見たか、聞いたか、たった今出た瓦版かわらばんじゃ、瓦版じゃ。大和五条の天誅組てんちゅうぐみが、下火したびと見えたら又しても乱が興った。
(新字新仮名) / 吉川英治(著)
社長の仏道発心ぶつどうほっしんは半年ばかり続いた。念仏は稍〻やや下火したびになったけれど、数珠は絶対に離さない。この分では永久かと思われた。
人生正会員 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
害がやや下火したびになるとほっとする傾きがあって、はたしてその結末までが、明らかになっているかどうかは心もとない。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「やあ、警部どの」と頤髯あごひげえた警官が青ざめた顔を近づけました。「やっと下火したびになりました。その代り、小田原の町は御覧のとおり滅茶滅茶めちゃめちゃです」
崩れる鬼影 (新字新仮名) / 海野十三(著)
石燈籠は柱を残したまま、おのずからほのおになって燃え上ってしまう。炎の下火したびになったのち、そこに開き始める菊の花が一輪。菊の花は石燈籠の笠よりも大きい。
浅草公園:或シナリオ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
コロリもおいおい下火したびになったので、地蔵さまも踊らなくなったのだと云い触らす者もありましたが、ともかくも地蔵さまはもう踊らないという噂が立ったので
半七捕物帳:66 地蔵は踊る (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
かれ最初さいしよはく人気にんきが、そのころやゝ下火したびになりかけてゐるのにがついてゐた。
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
專門せんもん工科こうくわ器械學きかいがくだから、企業熱きげふねつ下火したびになつた今日こんにちいへども日本中にほんぢゆう澤山たくさんある會社くわいしやに、相應さうおうくちひとつやふたつあるのは、勿論もちろんであるが、親讓おやゆづりの山氣やまぎ何處どこかにひそんでゐるものとえて
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
其處そこだけ、えかゝり、下火したびるのだらうと
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
秀吉がまだ子どもの頃だった天文年間には、もう和寇わこうはだいぶ下火したびになっていた。けれど昔を語る潮焦しおやけのした老人は、まだたくさん田舎に生きていた。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「コロリもだんだん下火したびになったのと、寺社の方から何だかいやなことを云われそうにもなって来たので、ここらがもう見切り時だと諦めて、踊らせないことにしたのでしょう」
半七捕物帳:66 地蔵は踊る (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
しかしかれこれ一月ひとつきばかりすると、あいつの赤帽を怖がるのも、大分だいぶ下火したびになって来た。
妙な話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
従軍の役目をすませて、わたしが東京へ帰って来た頃には、戦争劇はもう下火したびになっていた。日清戦争当時の例によって、新派では東京から川上と藤沢とが戦地視察に行った。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「さすがにこよみは争われねえ。これでコロリも下火したびになるだろう」
半七捕物帳:55 かむろ蛇 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)