上目うわめ)” の例文
梶原が実検する中、その方を上目うわめに見、顔をしかめつつ両手を膝につき、膝頭を揃へ、段々と背延して、中腰になりてきっと見て居る。
そして少し上目うわめをつかって鏡のほうを見やりながら、今まで閉止していた乱想の寄せ来るままに機敏にそれを送り迎えようと身構えた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
神前をはばかるのか、かれは絶えずうつむいているが、ときどき鋭い上目うわめ使いをしてあたりに注意しているらしいのが半七の眼についた。
半七捕物帳:26 女行者 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
流眄、すなわち流し目とは、ひとみの運動によって、こびを異性にむかって流しることである。その様態化としては、横目、上目うわめ伏目ふしめがある。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
それはよく見ると猿の頭の形になっていました。その彫刻の猿は、大きな口をあいて、上目うわめで空の方でも眺めているような恰好かっこうをしています。
怪塔王 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ところへ、次の部屋へ、家老の曾根権太夫がうやうやしく式体して平伏しながら、上目うわめづかいにこッちを見上げて
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かの女はまた上目うわめをしながら神経深くなって、何かこまかい感情の上のことや、茶碗のふちが、少しばかり欠けたことや、男の出掛けぎわに故意わざと視線を外らしたことや
香爐を盗む (新字新仮名) / 室生犀星(著)
そして最初になめらかそうな処をえらんで本という字を懸命に書いてみた。草履ぞうり拭物ふきものの代りをした。彼は短い白墨がって来ると上目うわめをつかって、暫く空を見ていてから
(新字新仮名) / 横光利一(著)
その些中さなかになるとどうも胸がむかついて来て——と云うものだから、私は眼をつむるよりも——そんな時は却って、上目うわめきつくした方がいいよ——と教えてやったものさ。
絶景万国博覧会 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
父の声はいつになくあらかった、芳輔は上目うわめ使いに両親の顔をぬすみ見しながら、からだをもじりもじり座敷ざしきのすみへすわった。すわったかとするともうよそ見をしてる。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
くっきりとした二重眼瞼ふたえまぶたの方へ黒目を寄せて上目うわめがちに、鏡の中を覗きこみながら、寝乱れた鬢の毛をかき上げてる、軽い斜視の乏しい視力の眼付と真白な細面ほそおもての顔とを
溺るるもの (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「そんなことくちさなければ、いいじゃないか。」と、おとうと上目うわめでにらみました。
金歯 (新字新仮名) / 小川未明(著)
吾れ知らずうつむきながらソーッと上目うわめづかいに見ていたように思う。
鉄鎚 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
清岡は上目うわめづかいにじろりと記者の顔を見た。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
と答えながら上目うわめづかいに、夢の中からでも人を見るようにうっとりと事務長のしぶとそうな顔を見やった。そしてそのまま黙っていた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
いつも、あたまのはげあがった番頭ばんとうが、上目うわめ使つかって、じろりと平三へいぞうかおをにらむようにて、一ごうますにさけをはかっていれてわたしました。かれは、毎日まいにち毎日まいにち失望しつぼうして、いえかえってきたのであります。
赤いガラスの宮殿 (新字新仮名) / 小川未明(著)
上目うわめづかいに武蔵の顔いろを窺っていった。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と愛子は例の多恨らしい美しい目を上目うわめに使って葉子をぬすみ見るようにしながら
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
そして、ギラリと凄い上目うわめた。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)