一端いったん)” の例文
ただ其折そのおり弟橘姫様おとたちばなひめさま御自身ごじしんくちづからもらされたとおむかしおもばなし——これはせめてその一端いったんなりとここでおつたえしてきたいとぞんじます。
この遺憾を補う一端いったんとして、最近読んだ書籍ほんの中から、西洋にもあり得た実例の一例として、その要領だけを引き抜いてみることにしよう。
不吉の音と学士会院の鐘 (新字新仮名) / 岩村透(著)
政府が国家的事業の一端いったんとして、保護奨励を文芸の上に与えんとするのは、文明の当局者としてもとより当然の考えである。
文芸委員は何をするか (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一度は夫人があのフィルムの一端いったんを奪ったのですが、それは焼いてしまいました。バッグの底にのこっているフィルムの焼け屑は、あれだったんです。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そのがい一端いったんのみを見てただちにそのものの無用をろんずるのは、あまりにあさはかな量見りょうけんであるかもしれない。
蛆の効用 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「そうか。不愍ふびんな生れつきの者どもではある。老幼のこらずこれへ集めて、この布一端いったんずつけてつかわせ」
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一端いったん知ってみれば、すぐかれがわがくに文芸道の第一人者ということが分ったね。実は驚いているところさ。
芝生しばふはしさがっている崖の上の広壮な邸園ていえん一端いったんにロマネスクの半円祠堂しどうがあって、一本一本の円柱は六月のを受けてあざやかに紫薔薇色ばらいろかげをくっきりつけ
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
気が附くと、人夫は屍体に、縄を掛けたらしく、その縄の一端いったんを掴んで、屍体を引きずり上げている。啓吉はその屍体を一目見ると、悲痛な心持にならざるを得なかった。
死者を嗤う (新字新仮名) / 菊池寛(著)
おのれを以て人を推せば、先祖代々土の人たる農其人の土に対する感情も、其一端いったんうかがうことが出来る。この執着しゅうちゃくの意味を多少とも解し得るかぎを得たのは、田舎住居の御蔭おかげである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
既に去歳きょさい木下杢太郎きのしたもくたろう氏は『芸術』第二号において小林翁の風景版画に関する新研究の一端いったんを漏らされたが、氏は進んで翁の経歴をたずねその芸術について更に詳細なる研究を試みられるとの事である。
これは半面に自分の不得意な音曲でさえこのくらいに出来るという風に聞え彼女の驕慢な一端いったんうかがわれるがこの言葉なども多少検校の修飾しゅうしょくが加わっていはしないか少くとも彼女が一時の感情に任せて発した言葉を
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そして途端に持っていた蝙蝠傘こうもり一端いったんを放した。
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
あのときわしが、こういう苦労も長くはさせぬぞ——と、その方の家族たちを励まして帰った。今日の加増は余りにささやかだ、その折の家康が約束の一端いったんと思うて、受けてくれよ。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その一端いったんにつけたる小型のスポイトよりなるものにして、スポイトを指先で押すときは、家ダニ容器の先端せんたんより、人知れず家ダニを発射し、相手にタカラしむることを得るものである。
発明小僧 (新字新仮名) / 海野十三佐野昌一(著)
「もう済んだ。ああ好い心持だ」と圭さん、手拭の一端いったんを放すや否や、ざぶんと温泉の中へ、石のように大きな背中を落す。満槽まんそうの湯は一度に面喰めんくらって、槽の底から大恐惶だいきょうこうを持ち上げる。
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
なおもその先を辿たどって見ると、その電線の一端いったんは、電灯線の所謂いわゆる第四種線にからまって由蔵の屍骸の傍に終ってい、他の一端を探ってみると、棟木むねぎの上に、ベルに用いるようなマグネットがあって
電気風呂の怪死事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)