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しよいあげ
けれど
私は
如何いふものか、
其に
触つて
見る
気は
少しもなく、
唯端の
喰出した、一
筋の
背負揚、それが
私の
不安の
中心点であつた。
抽斗を
透して、
私と
背負揚を
引張出して
見ると、
白粉やら
香水やら、
女の
移香が
鼻に
通つて、
私の
胸は
妙にワク/\して
来た。
背負揚のうちに、
何等の
秘密があらうとは
思はぬ。が、もし
有つたら
如何する?と
叫んだのも、
恐く
此の
猜疑心であらう。
私はそれを
感ずると
同時に、
妙に
可厭な
気が
差した。
矢張男が
恋しく、
其学生が
田舎から
細君を
連れて
来るまで
附纏つたと
云ふだけの、
事実談に
過ぎぬのであるが、
文を
脊負揚に
仕舞つて
置いた一
事が、
何となく
私の
記憶に
遺つてゐる。
其女は
才も
働き、
勉強も
出来、
優れて
悧巧な
質であつたが、
或時脊負揚のなかゝら
脱落ちた
男の
文で、
其保護者の
親類の
細君に
感づかれ、一
時学校も
停められて、
家に
禁足されてゐたが