縁側えんがは)” の例文
古ぼけた葭戸よしどを立てた縁側えんがはそとには小庭こにはがあるのやら無いのやらわからぬほどなやみの中にのき風鈴ふうりんさびしく鳴り虫がしづかに鳴いてゐる。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
掃除さうぢんだひやりとした、東向ひがしむき縁側えんがはると、むかやしきさくらたまあらつたやうにえて、やほんのりと薄紅うすべにがさしてる。
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
度目どめめたときかれおどろいてきた。縁側えんがはると、宜道ぎだう鼠木綿ねずみもめん着物きものたすきけて、甲斐々々かひ/″\しく其所そこいらをいてゐた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
つかまへてお濱さんへの土産みやげにする気で、縁側えんがはづたひに書院へ足音を忍ばせて行つたが、戸袋とぶくろに手を掛けてかきの樹を見上げた途端はずみに蝉は逃げた。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
勘次かんじ草刈籠くさかりかご脊負せおつて巡査じゆんさあといて主人しゆじんいへ裏庭うらにはみちびかれた。巡査じゆんさ縁側えんがは坐蒲團ざぶとんこしけたとき勘次かんじかご脊負せおつたまゝくびれてつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「俺の方が餘つ程あきれるよ。そんなに向島が眺めたかつたら、縁側えんがはに昇つて背伸して見ろ、はりに顎を引つかけると、丑寅うしとらの方にポーツと櫻が見える——」
入口いりくち彼方あちらなが縁側えんがはで三にん小女こむすめすわつてその一人ひとり此方こちらいましも十七八の姉樣ねえさんかみつてもら最中さいちゆう
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
もんいたと思ふとちひさな足音あしおとがして、いきなりお縁側えんがはのところで「さいなら!」などゝ言つてゐます。
冬を迎へようとして (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
或る日の縁側えんがはすわらせた學校友たちの一人をうつしてみたかん板につひにうつすりとそれらしい影像えいぞうあらはれた。
聞て三五郎是は有難しと後について大方丈を通拔とほりぬけ鼓樓ころうの下をくゞりて和尚の座敷の縁側えんがはまかり出平伏なすに此時可睡齋かすゐさいは靜かにころもの袖をかき合せながら三五郎を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
縁側えんがは南天なんてんをみてゐたら、おばさんはうしろからわたしかたそでいて
桜さく島:見知らぬ世界 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
いたまぬならねどしゆうへなほさらにづかはしくかげになり日向ひなたになり意見いけん數々かず/\つらぬきてや今日けふ此頃このごろそでのけしきなみだこゝろれゆきてえんにもつくべしよめにもかんと言出いひいでしことばこゝろうれしく七年越しちねんごしのえて夢安ゆめやすらかに幾夜いくよある明方あけがたかぜあらくまくらひいやりとして眼覺めさむれば縁側えんがは雨戸あまど一枚いちまいはづれてならべしとこ
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
勝手かつてしなにいていた、縁側えんがはについてようとすると、途絶とだえてたのが、ばたりとあたツて、二三つゞけさまにばさ、ばさ、ばさ。
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
宗助そうすけ何時いつものやう縁側えんがはからちやかずに、すぐ取付とつつきふすまけて、御米およねてゐる座敷ざしき這入はいつた。ると、御米およね依然いぜんとしててゐた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
二三にんちひさな療治れうぢんで十二三のをとこ仕事衣しごとぎまゝな二十四五の百姓ひやくしやうはれて醫者いしやまへゑられた。醫者いしや縁側えんがはあかるみへ座蒲團ざぶとんいてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
それが變なんです、ほんの煙草二三服もすると、歸つたのか戻つて來たのか、縁側えんがはで足音がしたやうですが、それつきり靜かになつて、歸つた樣子もありません。
さて又白洲の縁側えんがはには町奉行下役郡方手代々官迄殘らず綺羅きらびやかに居並び今日は九助に切繩を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
つはくらい。……前途むかうさがりに、見込みこんで、勾配こうばいもつといちじるしい其處そこから、母屋おもや正面しやうめんひく縁側えんがはかべに、薄明うすあかりの掛行燈かけあんどんるばかり。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ねえさん、障子しやうじるときは、餘程よほど愼重しんちようにしないと失策しくじるです。あらつちや駄目だめですぜ」とひながら、小六ころくちや縁側えんがはからびり/\やぶはじめた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
申者かな伯父夫婦は相果あひはてあとも知れざる由家主いへぬししかおぼえずこれうたがひの一つ又うつせみが實の親なる者越後と申事なり只今たゞいま汝に引合ひきあはする者ありと井戸源次郎を呼出よびいだされ縁側えんがはに控へるを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
が、按摩あんまよろしう、と縁側えんがはつたのでない。此方こちらからんだので、術者じゆつしや來診らいしん氣組きぐみだから苦情くじやうへぬがおどろいた。
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
代助は机の上の書物を伏せると立ちがつた。縁側えんがは硝子戸がらすど細目ほそめけたあひだからあたゝかい陽気な風が吹き込んでた。さうして鉢植のアマランスの赤いはなびらをふら/\とうごかした。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
縁側えんがはきてひらき、「いざ御覽ごらんあそばさるべし」とつかふ。「一寸ちよいと其中そのなかはひつてよ」と口輕くちがるまをされければ、をとこハツといひて何心なにごころなくかごはひる。
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
があけたわ、かほあらつたわ、旅館りよくわん縁側えんがはから、築山つきやままつへたのがいくつもかすみなかいてる、おほきいけながめて、いゝなあとつたつて、それまでだ。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
爪尖上つまさきあがりの廊下らうかから、階子段はしごだん一度いちどトン/\とりて、バタンととびらけてはひつた。縁側えんがはづきのおつな六疊ろくでふ
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
たちま心着こゝろづくと、おなところばかりではない。縁側えんがはから、まちはゞ一杯いつぱいに、あをしやに、眞紅しんくあか薄樺うすかばかすりかしたやうに、一面いちめんんで、びつゝ、すら/\としてく。
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
へんです。……どうもへんなんです——縁側えんがは手拭掛てぬぐひかけが、ふはりと手拭てぬぐひけたまゝで歩行あるくんです。
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
やがて着流きなが懷手ふところでにて、つめたさうな縁側えんがは立顯たちあらはれ、莞爾につことしていはく、何處どこへ。あゝ北八きたはち野郎やらうとそこいらまで。まあ、おはひり。いづれ、とつてわかれ、大乘寺だいじようじさかのぼり、駒込こまごめづ。
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
そで雪洞ぼんぼりをぴつたりせたが、フツとえるや、よろ/\として、崩折くづをれるさまに、縁側えんがはへ、退しさりかゝるのを、そらなぐれにあふつたすだれが、ばたりとおとして、卷込まきこむがごと姿すがた掻消かきけす。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
くのが、身體からだ縁側えんがははしつて、のまゝ納戸なんど絲車いとぐるまうへへ、眞綿まわたひしやいだやうに捻倒ねぢたふされたのを、松原まつばらから伸上のびあがつて、菜畠越なばたけごしに、とほくでて、したいて、かすみがくれの鼻唄はなうた
一席話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
したに、火箸ひばしさきつゝいた、きずがポツツリえる、トたしかおぼえてわすれぬ、瓜井戸うりゐど宿しゆくはづれで、飯屋めしや縁側えんがはしたから畜生ちくしやうを、煙管きせる雁首がんくびでくらはしたのが、ちやうおなひだりした
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
店前みせさき縁側えんがはかべ立掛たてかけてあつたやつを、元二げんじ自分じぶん据直すゑなほして、こしける。
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
萌黄もえぎ淡紅ときいろしどけないよる調度てうど部屋々々へや/″\にあからさまで、下屋したやはしには、あかきれ翻々ひら/\する。寢轉ねころんだをとこはしらつた圓髷姿まるまげすがたぜんはこ島田髷しまだまげ縁側えんがはを——ちう釣下つりさがつたやうにとほる。
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
何時いつにか、住居すまひはひつて縁側えんがは座敷ざしき臺所だいどころ、とまゝにふたつがくるあそぶ。
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
臺所だいどころから縁側えんがは仰山ぎやうさんのぞ細君さいくんを「これ平民へいみんはそれだからこまる……べものではないよ。」とたしなめて「うだい。」と、裸體らたい音曲師おんぎよくし歌劇オペラうたふのをつてせて
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ところへ、よこづけにつた汽車きしやは、おほきくろ縁側えんがはさつながれついたおもむきである。
大阪まで (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
いまがはなころの、裏邸うらやしき枇杷びはかとおもふが、もつとちかい。屋根やねにはまい。ぢき背戸せどちひさな椿つばきらしいなと、そつと縁側えんがはつと、その枇杷びははうから、なゝめにさつとおとがして時雨しぐれた。
湯どうふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
欄干てすりんで、縁側えんがはたてめぐり、階子段はしごだんよこはしる。
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)