かゝは)” の例文
此日このひ宗助そうすけかくもとおもつて電車でんしやつた。ところ日曜にちえう好天氣かうてんきにもかゝはらず、平常へいじやうよりは乘客じようきやくすくないのでれいになく乘心地のりごゝちかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
女王樣ぢよわうさまこと大小だいせうかゝはらず、すべての困難こんなん解决かいけつする唯一ゆゐいつ方法はうはふ御存ごぞんじでした。『れのあたまねよ!』と四邊あたりずにまをされました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
勘次かんじ毎朝まいあさ方面はうめんことなつてるにもかゝはらず、同時どうじつてくのをなければこゝろまないのであつた。毎朝まいあささうするので
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
愛嬌あいけう笑ひを忘れないと言つた、この上もない如才なさが、腕にも名聲にもかゝはらず、世間の一部から反感を持たれてゐる原因でもあるでせう。
かれくも神經質しんけいしつで、其議論そのぎろん過激くわげきであつたが、まち人々ひと/″\れにもかゝはらずかれあいして、ワアニア、と愛嬌あいけうもつんでゐた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
それにもかゝはらず、神武天皇じんむてんのう時分じぶんに、ちゃんとあゝいふ調とゝのつた、景色けしきうたがあるといふことは、どうしても、不自然ふしぜんなようにかんがへられます。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
マス君はしば/\真直まつすぐな鋭い剣を送つたが、たま/\其れを避け外したカ君の右腕うわんから血が流れた。なり深い負傷であるにかゝはらずカ君は戦闘を続けた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
番頭傳兵衞でんべゑいへる者あづか支配しはいなし居たるが此處に吉之助をつかはして諸藝しよげいの師をえらみ金銀にかゝはらずならはするに日々生花いけばなちや其外そのほか遊藝いうげい彼是なにくれと是を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
これが立上ると新入幕の小野川((後の大関豊国))が、十分な差手を差勝つて居るにもかゝはらず、一向勝身に出て行かない。
呑み込み八百長 (新字旧仮名) / 栗島山之助(著)
自己じこ現在げんざいつて經濟界けいざいかいつと變化へんくわしてるにかゝはらずれにたいして充分じうぶん理解りかいのないのがむしろより重大ぢうだいなる原因げんいんである。
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
利章は最早坐視するに忍びないので、一成や内藏允に留められたにもかゝはらず、病氣を申し立てゝ家老の職を辭した。忠之は即座にこれを許した。
栗山大膳 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
人生のいかに紛糾ふんきうせるにもかゝはらず、金星は飛んで地球の上に堕ちざるなり、彗星は駆けつて太陽の光りを争はざるなり。
最後の勝利者は誰ぞ (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
拒絶して居るにかゝはらず、講堂の内面ではかへつて盛に其の卵が孵化ふくわされて居るんだから、実に多望なる我々の将来ぢやないか
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
夫人ふじん屹度きつと無事ぶじであらうとはれたにかゝはらず、日出雄少年ひでをせうねんも、わたくしも、最早もはや貴女あなたとは、現世このよでおかゝこと出來できまいとばかり斷念だんねんしてりましたに。
然し、その性質如何いかんかゝはらず、一たい人の犯罪乃至ないしは祕密を探し尋ねて、それを白日はくじつにさらし出すとふ事はあんまり好い氣持のするものぢやありません。
探偵小説の魅力 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
じつこの音色ねいろたくはへてなどといふは、不思議ふしぎまうすもあまりあることでござりまする。ことに親、良人をつとたれかゝはらず遺言ゆゐごんなどたくはへていたらめうでござりませう。
世辞屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
異にせるにかゝはらず、之れに触れざる作家なかるべき所以ゆゑんは普遍といふ語にも著くまた上文既に論じたる所にも著し
国民性と文学 (新字旧仮名) / 綱島梁川(著)
これは空氣くうき上層じようそうには通常つうじよう西風にしかぜがあるので、下層かそう風向かざむきの如何いかんかゝはらず、こまかな火山灰かざんばひ大抵たいてい大氣中たいきちゆう上層じようそうり、東方とうほうはこばれるにるからである。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
その祖父はかつて孫を此上なく寵愛ちようあいして、およそ祖父の孫に対する愛は、遺憾ゐかんなく尽して居つたにもかゝはらず、その死の床にははべつて居るものが一人も無いとは!
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
みぎ次第しだいにて大陰暦たいゝんれき春夏秋冬しゆんかしうとうせつかゝはらず、一年の日數ひかずさだむるものなれば去年きよねん何月何日なんぐわつなんにちと、今年ことし其日そのひとはたゞとなへのみ同樣どうやうなれども四季しきせつかなら相違さうゐせり。
改暦弁 (旧字旧仮名) / 福沢諭吉(著)
幾回いくくわいものカンフル注射ちうしやほどこされて、みな彼女かのぢよ身内みうちものが、一人ひとりでもてくれることのぞんでゐたが、電報でんぱうつたにもかゝはらず、誰一人たれひとり、たうとうなかつた。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
大阪美術倶楽部くらぶで催された故清元きよもと順三の追悼会ついたうゑに、家元延寿太夫えんじゆだいふが順三との幼馴染おさななじみおもひ出して、病後のやつれにもかゝはらず、遙々はる/″\下阪げはんして来たのは美しい情誼であつた。
しかしそれにもかゝはらず、彼にはやはり加納の家の成育盛りの娘を持つた家庭に独特な、目に見えない派手な空気を何処かに漂はせてゐる事実を感じないわけにはゆかなかつた。
朧夜 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
さつきから空の大半たいはん真青まつさをに晴れて来て、絶えず風の吹きかよふにもかゝはらず、ぢり/\人のはだ焼附やきつくやうな湿気しつけのある秋の日は、目の前なる大川おほかはの水一面にまぶしく照り輝くので
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
糶呉服せりごふくりたのさへかへさない……にもかゝはらず、しやちたいして、もんなしでは、初松魚はつがつを……とまでもかないでも、夕河岸ゆふがし小鰺こあぢかほたない、とかうさへへば「あいよ。」とふ。
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それは、二十つぼばかりの貝殼かひがらを、のこらず綺麗きれい取出とりだして、やぶはうはこび、其所そこ綺麗きれいに、かひかひいしいしつちつちと、ふるひけてあるにかゝはらず、石器せききも、土器どきも、獸骨じうこつも、なにらね。
勘兵衞は訂正ていせいしてくれます。さう言へば、美しさも、身扮みなりの整つて居るにもかゝはらず、眉も齒も、娘姿に間違ひはありません。
美術館ピナコテカでは沢山たくさんあるリユニイの絵を面白いと思つた。ラフワエルの「処女のマリア」は呼物よびものであるにかゝはらず芝居がゝつた有難くない絵であつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
今度こんどは『召上めしあがれ』といた貼紙はりがみがありませんでしたが、それにもかゝはらずあいちやんはせんいてたゞちにくちびるてがひました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
こんなすぐれたうたが、しかも非常ひじようたふと方々かた/″\のおさくてゐるにかゝはらず、世間せけん流行りゆうこうは、爲方しかたのないもので、だん/\、わるほうへ/\とかたむきました。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
が、かれまちもの部下ぶかのやうにあつかふにもかゝはらず、院長ゐんちやうアンドレイ、エヒミチばかりは、教育けういくがあり、高尚かうしやうこゝろつてゐると、うやまあいしてゐた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
其勢が余りはげしかつたので、横山は上田の腕に微傷かすりきずを負はせたにもかゝはらず、やいばを引いて逃げ出した。上田は追ひすがつて、横山の後頭を一刀切つて引き返した。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
爲替相場かはせさうば騰貴とうきにもかゝはらず糸價しかかへつ騰貴とうき賣行うれゆきまた良好りやうかうなりしに米國證劵市場べいこくしようけんしぢやう不安定ふあんてい糸價しか下落げらくしたるは我國わがくに生糸貿易きいとぼうえき非常ひじやう遺憾ゐかんとするところである。
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
作家自身にして籍を一国に有する限りは其詩材もしくは主題の何たるにかゝはらず、其の作の気脉きみやくは多少国民性に触れざらんと欲するもべからざるにはあらざるか。
国民性と文学 (新字旧仮名) / 綱島梁川(著)
たゞみなとおくではかような大事變だいじへんおこしてゐるにかゝはらず數十町すうじつちよう沖合おきあひではまつたくそれに無關係むかんけいであつて當時とうじそこを航行中こう/\ちゆうであつた石油發動機船せきゆはつどうきせん海岸かいがんけるかゝる慘事さんじ
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
村の人の幾らか好くなつたらうと望をしよくして居たのにもかゝはらず、相変らず無頼ぶらいで、放蕩はうたうで後悔を為るどころか一層大胆に悪事を行つて、殆ど傍若無人といふ有様であつた。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
となりでは自分じぶんうでられたやうだとしんだにもかゝはらずおしないへではひそかよろこんだのであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
そのしたうたがひもなき大洞窟おほほらあなで、逆浪ぎやくらう怒濤どたう隙間すきまもなく四邊しへん打寄うちよするにかゝはらず、洞窟ほらあななかきわめて靜謐せいひつ樣子やうすで、吾等われらあゆたびに、その跫音あしおとはボーン、ボーン、と物凄ものすごひゞわたつた。
彼が表面非常な貧窮と質素とを装ふにかゝはらず、其の実は驚くべき華奢贅沢きやしやぜいたくをして居るのだ、彼を指して道徳堅固な君子だなど思ふのは、其の裏面を知らない者の買ひかぶりである
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
あふれる水にれた御手洗みたらしの石がひるがへる奉納ほうなふ手拭てぬぐひのかげにもうなんとなくつめたいやうに思はれた。れにもかゝはらず朝参あさまゐりの男女は本堂の階段をのぼる前にいづれも手を洗ふめにと立止たちどまる。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「雨乞ひをしてるのです。」所員の一人が坊主頭をすくめながら言つた。「折角の所長の警報が痕形も無くなつては、私達の信用にかゝはりますから、せめて雨でも降らせたいと思つて。」
紅葉は「伽羅枕」を、露伴は「辻浄瑠璃つじじやうるり」を、時を同うして作り出たり。此二書に就き世評既に定まれるにもかゝはらず、余はいさゝか余が読来り読去るに念頭に浮びし感を記する事となしぬ。
その刹那せつなから可成かなりな心身の疲れにもかゝはらず、こまかく推敲すゐかうしつつ全部を書き直し、更にそれを三度書き直して、最後のふでを置いたのが忘れもしない十月十七日の夜の十二時近くなのであつた。
処女作の思い出 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
みんほかものまつただまつて、きはめて不快ふくわい容貌かほつきをしてゐるにもかゝはらず、女王樣ぢよわうさまなにからなにまで一人ひとり饒舌しやべつてられました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
日本贔屓びいきの男で、十七年まへに一度日本へ来たが、今度も六十歳を越えた老人の身を気遣つて娘が見合せよと云つたにかゝはらず出掛けたと云つて居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
それにもかゝはらず、二人の娘は、默つて顏を見合せてゐるのです。この頃の町人達のやうな、事勿ことなかれ主義にてつして、極端に掛り合ひを恐れてゐるのでせう。
しかし普通ふつうひとは、文學ぶんがくうへではやはりむかしのまゝのかたどほりにつくつてゐるにかゝはらず、すぐれたひとは、その時代じだいひとらしいで、ものかんじるものであります。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
立派な手廣な角店で、五彩目を奪ふ頭飾かみかざりの類がならべてある。店頭には、雨の盛に降つてゐるにもかゝはらず、蛇目傘じやのめがさをさし、塗足駄ぬりあしだ穿いた客が引きも切らず出入してゐる。
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
しか爲替相場かはせさうば騰貴とうきした割合わりあひには低落ていらくせざるのみならず七ぐわつ以來いらいつね非常ひじやう好賣行かううれゆきであつて爲替相場かはせさうば漸次ぜんじ騰貴とうきするにかゝはらず九ぐわつりては千三百五十ゑんとなつたのである。
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
それからまた根切蟲ねきりむし残酷ざんこくかたくきもとからぷきりとたふしてうゑかずるにもかゝはらず
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)