鼓吹こすい)” の例文
それ海内かいだいの文章は布衣ほいに落ち、布衣の文章は復古的、革命的思想を鼓吹こすいす。彼らのある者はみずからその然るを覚えずして然りしものあらん。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
私は迷信の打破には科学思想を鼓吹こすいするのが何よりも急務だと思っていますが、これと同時に宗教思想を伝播させるのも急務だろうと思います。
ユタの歴史的研究 (新字新仮名) / 伊波普猷(著)
トライチケの鼓吹こすいした軍国主義、国家主義は畢竟ひっきょう独乙統一のためではないか。其統一は四囲の圧迫を防ぐためではないか。
点頭録 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
我田引水と云われるのを承知の上で、私はここに人形趣味を大いに鼓吹こすいするのであります。(大正9・10「新家庭」)
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
捕物小説には、原則としてチャンバラはなく、捕物小説には、絶対に低級な義理人情の鼓吹こすい又は讃美はないのである。
すなわち朝権の衰微すいびを憤り、尊王の精神を鼓吹こすいして事を挙げようと企てたのであった。しかるにここに意外のことから計画は画餅がべいに帰することになった。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
関さんは文部もんぶの中学教員検定試験を受ける準備として、しきりに動植物を研究していた。その旅でも実際について関さんはしきりに清三にその趣味を鼓吹こすいした。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
「そんな言葉を使うもんじゃない。お鶴、お前が宜しくない。お前は子供に迷信を鼓吹こすいするのかい?」
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
または軍人の妻女が良人出陣のみぎりに痴情の涙をたたえて離別を惜しむと、あるいはいさぎよたもとを別ちて奉公義勇の精神を鼓吹こすいするとは、そのいずれか国家の富強に益あるか
国民教育の複本位 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
たとえ取締規則がこれを許しても、また二、三の変り者が実例を示して鼓吹こすいしたにしてもあまり流行はしそうもない、してもあの緊張した空気の中で好い声が楽に出ようとは思われない。
電車と風呂 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
いずすぐに御辞儀は仕まいが、俺などが来て随分鼓吹こすい宣伝した為に第一此方等が今迄の人間見てエに黙らされちゃア居ねエ、思う存分役人の前でスッパ抜いてやるから、何と遣繰やりくりしたって
監獄部屋 (新字新仮名) / 羽志主水(著)
もっとも、瑞見はその出発が幕府奥詰おくづめの医師であり、本草ほんぞう学者であって、かならずしも西洋をのみ鼓吹こすいする人ではなかったが、後進で筆も立つ人たちが皆瑞見のような立場にあるのではない。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
安重根 (子供を無視して)この国家的思想を鼓吹こすいするために——。
教育の精神は単に学問を授けるばかりではない、高尚こうしょうな、正直な、武士的な元気を鼓吹こすいすると同時に、野卑やひな、軽躁けいそうな、暴慢ぼうまんな悪風を掃蕩そうとうするにあると思います。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼の尊王敵愾てきがいの志気は、特に頼襄らいのぼるの国民的詠詩、及び『日本外史』より鼓吹こすいきたれるもの多しとす。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
京都の公卿に賓師ひんしとなって、勤王思想を鼓吹こすいした時に、左近将監武元に策して、断然たる処置をとらせたり、その後ほどを経て起こったところの、山県大弐やまがただいに、藤井右門の
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
しかるに時勢の進歩は次第に国民の覚醒を促し、爾来じらい十年ほどというものはいわゆる政治熱勃興の時代で、一方には政論家が到る処で演説会を催し自由民権の思想を鼓吹こすいする。
選挙人に与う (新字新仮名) / 大隈重信(著)
自分は教育家でないが、ただ自分一己の経験から推して考えれば、既に初学の時代にこの種の暗示を与える方が却って理解と興味を助長し研究的批評的の精神を鼓吹こすいするのではないかと思う。
方則について (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
あるいは民権の思想を鼓吹こすいし、あるいは国会開設の必要を唱うるに至った。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
たとい道徳的情操を鼓吹こすいしたって、始めから、この目的を本位として、述作にとりかからずに
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これはいずれも自己の主義主張を天下に鼓吹こすいし、同志を集めてこれを覆い、同時に多くの収入を得て、即ち一挙両得の利を占めんとしたのであるが、これらの書籍や新聞の議論は
東洋学人を懐う (新字新仮名) / 大隈重信(著)
国外の警報は、直ちに対外の思想を誘起し、対外の思想は、直ちに国民的精神を発揮し、国民的精神は、直ちに国民的統一を鼓吹こすいす。国民的統一と、封建割拠とは、決して両立するをゆるさず。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
わるいことであるといった精神を充分鼓吹こすいしてほしいと思う。
研究的態度の養成 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
文芸の目的が徳義心を鼓吹こすいするのを根本義にしていない事は論理上しかるべき見解ではあるが、徳義的の批判を許すべき事件が経となり緯となりて作物中に織り込まれるならば
文芸と道徳 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
写生文を鼓吹こすいした子規
子規の追憶 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
約束的にせよ善にくみし悪をみ、美を愛し、醜を嫌うものが、単に作物の上においてのみほこさかさまにして悪を鼓吹こすいし、醜を奨励しょうれいする態度を示すのは、ただに標準を誤まるのみならず
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
英国風を鼓吹こすいしてはばからぬものがある。気の毒な事である。おのれに理想のないのを明かに暴露ばくろしている。日本の青年は滔々として堕落するにもかかわらず、いまだここまでは堕落せんと思う。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
二十四時間の出来事をれなく書いて、洩れなく読むには少なくも二十四時間かかるだろう、いくら写生文を鼓吹こすいする吾輩でもこれは到底猫のくわだて及ぶべからざる芸当と自白せざるを得ない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)