霜解しもどけ)” の例文
来年の二月頃までは霜解しもどけがして草鞋でも草履でもすべって歩けねえ、霜柱がハア一尺五寸位もありやんして、其の霜解の中を歩いてまいり
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
閑話休題それはさておき日和下駄の効能といわば何ぞそれ不意の雨のみに限らんや。天気つづきの冬の日といえども山の手一面赤土を捏返こねかえ霜解しもどけも何のその。
おほきな藁草履わらざうりかためたやうに霜解しもどけどろがくつゝいて、それがぼた/\とあしはこびをさらにぶくしてる。せまつらなつてたて用水ようすゐほりがある。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
土藏と土藏の間、家の後ろなどには、滅茶滅茶に足跡が亂れて居りますが、霜解しもどけ頃ではあり、多勢の雇人に踏み荒されて、何が何やらわかりません。
此処辺こゝいらは冬になると処々ジメジメした霜解しもどけの土が終日乾かず、執拗く下駄の歯に粘り着いて歩くのも相応に骨だが、それでも舌の根は休ませなかった。
The Affair of Two Watches (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
永いようで短い冬は、事の起りそうで事の起らない自分の前に、時雨しぐれ霜解しもどけからかぜ……と既定の日程を平凡に繰り返して、かように去ったのである。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
旅館は出たがどこに行こうというあてもなかった葉子はうつむいて紅葉坂もみじざかをおりながら、さしもしないパラソルの石突きで霜解しもどけけになった土を一足ひとあし一足突きさして歩いて行った。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
水の流るゝ田圃たんぼりたり、富士大山から甲武連山こうぶれんざんを色々に見る原に上ったり、霜解しもどけの里道を往っては江戸みちと彫った古い路しるべの石の立つ街道を横ぎり、かしけやきの村から麦畑
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
家に入るところの道は霜解しもどけがして靴がぬかつた。松樹まつのきはもとのままだが、庭は広げられてあつた。大正十年の夏に僕夫婦の一夜宿とまつた部屋には炬燵こたつがかけてあつて、そこに諏訪の諸君があたつてゐた。
島木赤彦臨終記 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
霜解しもどけの門辺に人の行きなやみ
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
「潜るやうな穴はない。垣の上へ蒲團でも掛けたら、越せないこともあるまいが、向う側はお寺の境内で、霜解しもどけがひどいから、この五六日人間の入つた樣子はない」
霜解しもどけにはてゝとりがくるりとゆびいてはあしげておどろいたやう周圍あたり
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
幸い天気も好い、霜解しもどけは少々閉口するが道のためには一命もすてる。足の裏へ泥が着いて、椽側えんがわへ梅の花の印を押すくらいな事は、ただ御三おさんの迷惑にはなるか知れんが、吾輩の苦痛とは申されない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ガラツ八の八五郎は、霜解しもどけのひどい庭を指しました。それに昨夜は暖かでこほらなかつたので、下手人が外から來たとすれば、足跡を殘さずには近づけなかつたでせう。
「先刻の通りの嚴重な足拵あしごしらへでしたよ、泥だらけの草鞋わらぢで、此邊は霜解しもどけがひどいから」
ねぎの青さ、抜き捨てた大根の白さなど、ところどころに色彩の変化はありますが、だいたいは霜解しもどけと空っ風に荒された畑地で、歩くと不気味な足跡が一つ一つ印されるような土地です。