長脇差ながわきざし)” の例文
身仕度みじたくを整えた伝吉は長脇差ながわきざしを引き抜いたのち、がらりと地蔵堂の門障子かどしょうじをあけた。囲炉裡いろりの前には坊主が一人、楽々らくらくと足を投げ出していた。
伝吉の敵打ち (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
着流しに長脇差ながわきざし、ひとつ印籠いんろうという異様な風態ふうていだったので、人目をひかぬはずもなかったが、尾張おわりの殿様も姫路の殿様も、編笠あみがさなしの素面すめん
鈴木主水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
関東じまあわせに、鮫鞘さめざや長脇差ながわきざしして、脚絆きゃはん草鞋わらじで、厳重な足ごしらえをした忠次は、すげのふき下しの笠をかぶって、先頭に立って、威勢よく歩いていた。
入れ札 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
村内のものでも長脇差ながわきざしを帯びるか、または無宿者むしゅくものを隠し泊めるかするものがあればきびしく取り締まるようになって、毎月五日には各村民が陣屋に参集するという。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
おれ今でこそ車を引いてるが、元は大久保政五郎おおくぼまさごろうの親類で、駈出かけだしの賭博打ばくちうちだが、漆原うるしはら嘉十かじゅうと云った長脇差ながわきざしよ、ところが御維新ごいっしんになってから賭博打を取捕とっつかめえては打切ぶっきられ
やはりこの辺を飛び廻る下級の長脇差ながわきざし胡麻ごまはえもやれば追剥おいはぎかせごうという程度の連中で、今、中に取捲いておどしているのは、これは十二三になるさむらいの子とおぼしき風采ふうさい
野山にへる杉の樹や松の樹までが、常陸ッ木下総ッ木といへば、大工だいくさんが今も顔をしかめる位で、後年の長脇差ながわきざしの侠客も大抵たいてい利根川沿岸で血の雨を降らせあつてゐるのだ。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
眼ッかちの久六だの、禿安はげやすという長脇差ながわきざしだの、がま刺青いれずみだの、五人ほどの闘鶏師とりし
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
力と頼みて夜道をも子故のやみにたどりつゝ三次が後に引添ひきそひ歸らぬ旅路へ赴むくと虫が知らすか畔傳あぜづたひつたはる因果の耳元みゝもと近く淺草寺の鐘の音も無常むじやうを告る後夜ごやの聲かねて覺悟の早乘三次長脇差ながわきざし
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
長脇差ながわきざしを用意して置いてか?」
銭形平次捕物控:180 罠 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
(地図参照)伝吉は現在平四郎の浄観じょうかんと云っているのも確かめた上、安政六年九月七日なのか菅笠すげがさをかぶり、旅合羽たびがっぱを着、相州無銘そうしゅうむめい長脇差ながわきざしをさし、たった一人仇打ちののぼった。
伝吉の敵打ち (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)