鉄杖てつじょう)” の例文
旧字:鐵杖
役人の一人は鉄杖てつじょうを持ち直して、脚下あしもとに転がった人俵ひとだわらの一つの胴中どうなかをびしゃりとやった。その人俵からは老人の白髪しらが頭が出ていた。
切支丹転び (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
とじれて、鉄杖てつじょうを抜けば、白銀しろがねの色、月に輝き、一同は、はッと退く。姫、するすると寄り、さっと石段を駈上かけのぼり、柱にすがってきっと鐘を——
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、けよりざま、雷喝らいかつせい、闇からうなりをよんだ一じょう鉄杖てつじょうが、ブーンと釣瓶もろとも、影武者のひとりをただ一げきにはね飛ばした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もっとも鉄杖てつじょうの一なぎで、他愛もなくカタをつけましたがな。案外弱いのでびっくりしましたよ。なんの親切を恩に着ましょう
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
叫びざま追いかけて来て、荊玉造いばらだまつくりの鉄杖てつじょうふりあげながら、笑止にも挑みかかったのは玄長法師です。
と、忍剣にんけんは真から腹立たしくなって、ふたたび鉄杖てつじょうをにぎりしめたとき、はるか裾野すそののあなたに、ただならぬ光を見つけた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
街道の出入り口の広い地域には、巨材と青竹とで厳重なさくと、いかめしい門とが作られてあった。そうして弓や槍や長柄や、薙刀なぎなた鉄杖てつじょうで固められていた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
雪なすうすもの、水色の地にくれないほのおを染めたる襲衣したがさね黒漆こくしつ銀泥ぎんでいうろこの帯、下締したじめなし、もすそをすらりと、黒髪長く、丈に余る。しろがねの靴をはき、帯腰に玉のごとく光輝く鉄杖てつじょうをはさみ持てり。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「やッ」と、まッこうから、おがみうちに、うなりおちてきた忍剣の鉄杖てつじょうに、なにかはたまろう。あいては、かッと血へどをはいてたおれた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たたずんだおりから、うしろにあたり、かすかではあるが聞き覚えのある、鉄杖てつじょうの音がジャラーンとした。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
一際ひときわはげしきひかりもののうちに、一たび、小屋の屋根に立顕たちあらわれ、たちまち真暗まっくらに消ゆ。再びすさまじじきいなびかりに、鐘楼に来り、すっくと立ち、鉄杖てつじょうちょうと振って、下より空さまに、鐘に手を掛く。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ジャラーンと鳴る鉄杖てつじょうの音、ヒューッと風を切る木刀の音、「うん!」といううなり声。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
見れば、夜叉やしゃのような人影が、ほこやり鉄杖てつじょうをふるって、逃げ散る旅人や村の者らを見あたり次第にそこここで殺戮さつりくしていた。——眼をおおうような地獄がえがかれているではないか。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まだ、鉄杖てつじょうを斬るとか、よろい鉄銅かねどうを斬るとか、だいぶ項目が残っていたが
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)