重箱じゅうばこ)” の例文
と、こまってべそをかきました。するうち、ふとなにおもいついたとみえて、いきなりお重箱じゅうばこをかかえて、本堂ほんどうして行きました。
和尚さんと小僧 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「何、なんでもいい。食ってさえいれば何でも構わない」と、ぜんにして重箱じゅうばこをかねたるごとき四角なものの前へ坐ってはしる。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
からの重箱じゅうばこは、ズボンとポケットにつっこんだ松吉の右手に、だらしなくぶらさがり、ひと足ごとにおしりにぶつかります。
いぼ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
或者は裾踏み乱したるまま後手うしろでつきて起直おきなおり、重箱じゅうばこの菓子取らんとする赤児あかごのさまをながめ、或者はひと片隅かたすみの壁によりかかりて三味線をけり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
やま宿しゅくを出ると山谷堀……越えると浅草町で江戸一番の八百善やおぜんがある。その先は重箱じゅうばこなまずのスッポン煮が名代で、その頃、赤い土鍋をコグ縄で結わえてぶら下げて行くと
牧野惣左衛門まきのそうざえもんは、何か重箱じゅうばこのような包みをかかえて入って来た。すぐそれを悦之進にわたし
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
霜に染まった香の高い菊の小枝を折添えて、亥の子餅の重箱じゅうばこを配る。この夜子供のうたう唄
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
重箱じゅうばこのような四角い顔をした男は、失礼と言って、唐紙をしめかけて
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
重箱じゅうばこを洗ふて汲むや春の水 蕪村
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
そして御本尊ごほんぞん阿弥陀あみださまのお口のまわりに、重箱じゅうばこのふちにたまったあんこを、ゆびでかきよせては、こてこてとぬりつけました。
和尚さんと小僧 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
ふたりは、幸運こううんのしっぽを、たしかにつかんだ人のように、あわてずに、進んでいきました。竹切れは、ぬいてすてました。重箱じゅうばこは松吉が持ちました。
いぼ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
一人の男は背後より風に襲はれてたいの中心を失はんとし、腕を上げ手をひろげて驚けば、そのかたわらには丁稚でっちらしき小男重箱じゅうばこに掛けたる風呂敷ふろしきを顔一面に吹冠ふきかぶせられて立すくみたり云々うんぬん
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
穴へ転げて入る拍子ひょうしが面白いので、有るだけの団子をみな落し込み、その次には重箱じゅうばこを入れてもまだ足らず、おしまいにはいころりん爺いころりんと、自分まで転んで行ったというような
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
いよいよ道誉が配流はいるされて行く日を見れば、その行装など、日ごろの物見遊山とも変るところはなく、従者三百騎は、例の伊達だてすがたに猿皮のうつぼをかけたり、鶯籠うぐいすかごやら酒肴しゅこう重箱じゅうばこをたずさえたりして
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、こうひとごとをいいながら、ふろしきづつみをほどくと、大きなお重箱じゅうばこにいっぱい、おいしそうなお団子だんごがつまっていました。
和尚さんと小僧 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
小平さんは、ともかく、おもちをいただいておこうといって、おくへはいっていき、カタンコトンと音をさせていましたが、やがて、からの重箱じゅうばこを、また風呂敷ふろしきにつつんで出てきました。
いぼ (新字新仮名) / 新美南吉(著)