ひか)” の例文
しんとしてさびしい磯の退潮ひきしおあとが日にひかって、小さな波が水際みぎわをもてあそんでいるらしく長いすじ白刃しらはのように光っては消えている。
忘れえぬ人々 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
家の柱縁側えんがわなぞ時代つきて飴色あめいろに黒みてひかりたるに障子の紙のいと白くのりの匂も失せざるほどに新しきは何となくよきものなり。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
台所の戸の開捨てた間から、秋の光がさしこんで、流許ながしもと手桶ておけ亜鉛盥ばけつひかって見える。青い煙はすすけた窓から壁の外へ漏れる。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
赭色たいしやになりてはすの茎ばかり情無う立てる間に、世を忍びの白鷺が徐〻そろりと歩む姿もをかしく、紺青色に暮れて行くそらに漸くひかり出す星を脊中に擦つて飛ぶ雁の
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
座興とするに俊雄も少々の応答うけこたえが出来夜深くならぬ間と心むずつけども同伴の男が容易に立つ気色けしきなければ大吉が三十年来これを商標とみがいたる額のびんのごとくひかるを
かくれんぼ (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
そして、この言葉は「アーメン」を口にする人の数を、今でははるかに、抜いているのだ。そこには、新しい感激に燃える真理が、炬火たいまつのごとくに、ひかっているのだ。——
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
丘のあちこちに建てられたホテルには一斉にイルミネイションがひかり初める、そして村の楽隊バンドの Berner-Marsch が大通りの坂道を城の方へ動いて行く時分には
洋々たり万里のひかりだ。曖昧あいまいなものは何一つない。只、雪解けの泥々道を行く気持ちが心に重たい。せた十字架の電信柱が陽に光っている。堕落するには都合のいい道づればかりだ。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
かし、梅、だいだいなどの庭木の門の上に黒い影を落としていて、門の内には棕櫚しゅろの二、三本、その扇めいた太い葉が風にあおられながらぴかぴかとひかっている。
河霧 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
赭色たいしゃになりてはすの茎ばかり情のう立てる間に、世を忍びげの白鷺しらさぎがそろりと歩む姿もおかしく、紺青色こんじょういろに暮れて行くそらにようやくひかり出す星を背中にって飛ぶかり
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
洗場あらいばながしは乾く間のない水のために青苔あおごけが生えて、触ったらぬらぬらしそうにひかっている。そして其処には使捨てた草楊枝くさようじの折れたのに、青いのや鼠色の啖唾たんつばが流れきらずに引掛っている。
夏の町 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
薄気味の悪い「ひげ」が黄鼠いたちのような目をひからせて杉の杜の陰からにらんだところを今少し詳しく言えば
河霧 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
暗い倉の中を透してギラギラひかって見える。
夏の町 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
城山じょうざんは真っ黒な影を河に映している。よどんで流るるあたりは鏡のごとく、瀬をなして流るるところは月光砕けてぎらぎらひかっている。豊吉は夢心地になってしきりに流れを下った。
河霧 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
禿げた頭と同じようにてらてらひかっている。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
田畑ある島と知れけりあげ雲雀、これは僕の老父おやじの句であるが、山のむこうには人家があるに相違ないと僕は思うた。と見るうち退潮ひきしおあとの日にひかっているところに一人の人がいるのが目についた。
忘れえぬ人々 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)