“資本（もと）” の例文
ほぼ見極（みきわ）めをつけて、幾年目にどれだけの資本（もと）が出来るという勘定をすることぐらい、新吉にとって興味のある仕事はなかった。
新世帯 (新字新仮名) ／ 徳田秋声(著)
屑屋の資本（もと）の縞（しま）の財布を、首からはずして、紐（ひも）ぐるみ、クルクルと巻いたかと思うと、万吉は、それをポーンとほうってやって
鳴門秘帖：02 江戸の巻 (新字新仮名) ／ 吉川英治(著)
殊に縁日商人位泡沫（あぶく）銭の儲かる者は無い。僅か二両か三両の資本（もと）で十両位浮く事がある。尤も雨降のアブレもある。
貧書生 (新字旧仮名) ／ 内田魯庵(著)
……資本（もと）を勘定して、利𢌞はりを見ると、よしんば米が石二十圓からしてゝも、年二分五厘にほか當つてゐよらん。
太政官 (旧字旧仮名) ／ 上司小剣(著)
「自分も狙（ねら）はれてゐるやうに見せる細工ですよ。ひと泳ぎして疑ひをやり過せば、鼻風邪なんか安い資本（もと）ですぜ」
銭形平次捕物控：129 お吉お雪 (旧字旧仮名) ／ 野村胡堂(著)
唯一挺の三味線と咽喉（のど）を資本（もと）の門付という物貰いでございますが、昔は門付と申すとまア新内（しんない）に限ったように云いますし、また新内が一等いゝようでげすが
根岸お行の松　因果塚の由来 (新字新仮名) ／ 三遊亭円朝(著)
「餓鬼なんざ、また生めあいいじゃアねえか。資本（もと）はかからねえんだ。なんならおいらが頼まれてもいいや」
丹下左膳：02 こけ猿の巻 (新字新仮名) ／ 林不忘(著)
「真平だ。毎朝そんなに一生懸命になって資本（もと）を入れるよりも時稀（ときたま）風邪をひいて済崩（なしくず）しにする方が楽だよ」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) ／ 佐々木邦(著)
そんな筈ってあるもんだろうか？　まったく、なんだってわたしは、あの子のために資本（もと）も子もなくしちまわなくちゃならないんだろう？　何しろわたしは、ここまで辛い思いを
ムツェンスク郡のマクベス夫人 (新字新仮名) ／ ニコライ・セミョーノヴィチ・レスコーフ(著)
わたしも眼から鼻へ抜けるようなあの子の賢いのに感心して、それではまあ、やってごらんと言って、それからあの子の持っていた金の塊（かたまり）と、わたしの使い残りのお金を資本（もと）にして
大菩薩峠：09 女子と小人の巻 (新字新仮名) ／ 中里介山(著)
湯川さんも得をしたことはもちろんであるが、これには資本（もと）がかかっているばかりでなく、今後いろいろな負担がかかりそうである。そのうちで一番困るのは、精神的な負担であろう。
湯川秀樹さんのこと (新字新仮名) ／ 中谷宇吉郎(著)
大きな資本（もと）がなければ叶わぬことに手を出したが、あやまりじゃ。
雪之丞変化 (新字新仮名) ／ 三上於菟吉(著)
たゞしどつち道（みち）資本（もと）が掛（かゝ）る。
雨ふり (旧字旧仮名) ／ 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
この美貌の女子を手に入れるために、俺は、二十日（はつか）あまりの日を費やし、旅籠（はたご）料やら何やらと、沢山な資本（もと）もかけたのだ。
親鸞 (新字新仮名) ／ 吉川英治(著)
「まあそうですね。これが当ると、お上さんにもうんと資本（もと）を貸しますよ。どうせ私（あっし）は金の要（い）らない男ですからね」
あらくれ (新字新仮名) ／ 徳田秋声(著)
「自分も狙（ねら）われているように見せる細工ですよ。ひと泳ぎして疑いをやり過せば、鼻風邪なんか安い資本（もと）ですぜ」
銭形平次捕物控：129 お吉お雪 (新字新仮名) ／ 野村胡堂(著)
「それは仕方がありません。仇討ちですもの、犠牲の積りで少し資本（もと）を入れましょうよ」
好人物 (新字新仮名) ／ 佐々木邦(著)
なアに鶴や膃肭臍が滅多に取れるものか。豚の脂や仙台鮪（まぐら）の脂肪肉（あぶらみ）で好いのだ。脂でさへあれば胼あかぎれには確に効く。此奴を一貝（ひとかひ）一銭に売るんだが二貫か三貫か資本（もと）で一晩二両三両の商売（あきなひ）になる。
貧書生 (新字旧仮名) ／ 内田魯庵(著)
これが天の与えというもんだ、あんなに資本（もと）をつかって、おまけに、竹童みたいなチビ助に、おべっかをしたり、使いを
神州天馬侠 (新字新仮名) ／ 吉川英治(著)
「洋服屋も好い商売だが、やっぱり資本（もと）がなくちゃ駄目だよ。金の寝る商売だからね」小野田はお島に話した。
あらくれ (新字新仮名) ／ 徳田秋声(著)
「要るさ。資本（もと）がかゝるんだから、兎に角式の済むまでは浪人にならないでくれ給え」
負けない男 (新字新仮名) ／ 佐々木邦(著)
ヘエ、それで実は困っております。あの通り小屋まで掛けて、資本（もと）を入れた仕事ですから、今茶釜がなくなった——では、まるまる損でございます。何とか親分さんのお力で、悪者を
銭形平次捕物控：092 金の茶釜 (新字新仮名) ／ 野村胡堂(著)
「大事——未然に洩れては、すべての崩壊（ほうかい）だ。この城、この国、一朝にして、資本（もと）も子も失（な）くすことになる」
鳴門秘帖：04 船路の巻 (新字新仮名) ／ 吉川英治(著)
「そんなことして、摺（す）ってしまったらどうする気だえ。私（わし）はまア何でもいいから、資本（もと）のかからない、取着きの速いものを始めたらよかろうかと思うだがね。」
足迹 (新字新仮名) ／ 徳田秋声(著)
「賢ってこともないが、斯う角（かど）の取れるまでには可なり資本（もと）を入れてある。游ぎ丈けはこゝの池の外何処も知らない君より少し達者の積りだ。悪いことは言わないから、まあ聞き給え」
ガラマサどん (新字新仮名) ／ 佐々木邦(著)
景色を見るんだって、資本（もと）をかけると何となく心持が違います。
銭形平次捕物控：034 謎の鍵穴 (新字新仮名) ／ 野村胡堂(著)
「そいつはだめだ。敵（かな）いッこねえ。稀代（きたい）な名馬は、先の晩に、こっちへ貰ッてあることだし、この上、ヘタな欲を掻くと、資本（もと）も子も失（な）くしちまわぬ限りもねえ」
新・水滸伝 (新字新仮名) ／ 吉川英治(著)
「資本（もと）があってする商売なら、何だって出来るさ。だけれど、些（ちょっ）とした店で、どのくらいかかるのさ」
あらくれ (新字新仮名) ／ 徳田秋声(著)
景色を見るんだつて、資本（もと）をかけると何となく心持が違ひます。
銭形平次捕物控：034 謎の鍵穴 (旧字旧仮名) ／ 野村胡堂(著)
「本物ですな。これは大分資本（もと）が入っていますね」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) ／ 佐々木邦(著)
それまでに会社の方はパタパタになっていた。欠損を補うべき金や、下宿の資本（もと）を拵えると言って、叔父は暮に田舎へ逃げ出したきり、いつまでも帰って来なかった。
足迹 (新字新仮名) ／ 徳田秋声(著)
堂島（どうじま）へ出て、米商（こめあきな）いをしていましたが、それも、相場に焦心（あせ）って、資本（もと）も子も失くしたうえ、あの重病でございますから、これから先は、私が、芸妓にでもなって一心に
治郎吉格子 (新字新仮名) ／ 吉川英治(著)
しかし資本（もと）を入れているから一生懸命だ。
村の成功者 (新字新仮名) ／ 佐々木邦(著)
「あれは、多分お前がたにも話したことがあると思うが、この秦野屋（はたのや）が悲運に会ってつぶれかけた時、またそれ以来も何かというと、資本（もと）を出してくださる番衆町の殿様だ」
江戸三国志 (新字新仮名) ／ 吉川英治(著)
同じ米屋町の大物がつき、これは色気ぬきの高い利子で資本（もと）を卸し、抱えも殖（ふ）えれば、世帯（しょたい）道具も揃（そろ）い、屋台は小さくても、派手ッ気な彼女の外の受けは悪くなく、世界戦後の好況の潮に乗って
縮図 (新字新仮名) ／ 徳田秋声(著)
「資本（もと）を入れてあるんだよ」
ガラマサどん (新字新仮名) ／ 佐々木邦(著)
と、寺侍の株を買い、以来、ぷつんと、ひき籠ったきり、世間のうわさを避けていたが、その坐食の資本（もと）も、去年あたりで、涸渇（こかつ）してしまい、同時に、病気がちになっていた。
大岡越前 (新字新仮名) ／ 吉川英治(著)
父親は平手（ひらて）で額を撫（な）であげながら、黙っていた。父親の気は、まだそこまで決まっていなかった。行（や）って見たいような商売を始めるには、資本（もと）が不足だし、躯（からだ）を落して働くには年を取り過ぎていた。
足迹 (新字新仮名) ／ 徳田秋声(著)
化物刑部と、その一類の者は、もうここに住んでから、久しい年月になるが、株に資本（もと）を出しておいたお蔭はあって、きょうまで、この悪の古巣に、不安を覚えたことはなかった。
大岡越前 (新字新仮名) ／ 吉川英治(著)
する者の資本（もと）も同じで、悪党の詐術（さじゅつ）というもの。俺という人間は、善根どころか、悪根ばかりこの社会に植え歩いている、魔界の頭領なのだ。またこの先、こんな策（て）に乗らねえように、よく面（つら）を
親鸞 (新字新仮名) ／ 吉川英治(著)