調伏ちょうぶく)” の例文
「まア、そんなに気を立てずに、道尊さんの調伏ちょうぶくを待ってるがいい、そのうちに盗った野郎は、血へどを吐いて死ぬかも知れねえ」
雨月 さらでも女子おなごは罪ふかいと聞いたるに、源氏を呪詛のろい調伏ちょうぶくのと、執念しゅうねく思いつめられたは、あまりと云えばおそろしい。
平家蟹 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「いらい宮中に出入し、ついには五壇ノ法を構え、中宮御懐妊の祈祷とみせて、関東調伏ちょうぶくの祈りをなしたに相違あるまい」
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ねえ支倉君、黒呪術ブラックマジックは異教と基督キリスト教を繋ぐ連字符である——とボードレールが云うじゃないか。まさしくこれは、調伏ちょうぶく呪語に使う梵語のランの字なんだよ。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
口伝くでん玄秘げんぴの術として、明らかになっていないが、医術と、祈祷きとうとを基礎とした呪詛じゅそ調伏ちょうぶく術の一種であった。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
ちと承りたいことがござる。当山は悪魔退散邪法調伏ちょうぶく修法すほう
「もうたくさん、——なるほど結構な大師様らしい。泥棒調伏ちょうぶくのために、うんと線香をあげて下さい、——線香よりは、抹香まっこうの方がいいかも知れない」
狂言の一番目は前にも言った通り、かの「重盛諫言しげもりかんげん」を増補したもので、序幕は寿美蔵の何とか法印が平家調伏ちょうぶくの祈りをしているところへ雷が落ちる。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
先ごろから親鸞調伏ちょうぶく護摩ごまいて、一七日いちしちにちのあいだ、必死の行をしていた那珂なか優婆塞院うばそくいん総司そうつかさ——播磨公弁円はりまのきみべんえんは、銀づくりの戒刀かいとうを横たえて、そこのむしろに坐っていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
床下から、調伏ちょうぶくの人形を掘り出して以来の、旋風のような、いろいろの事件——それは、悉く、小太郎を巻き込んでいたが、自分の——人間の、体験したことではないように思えた。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
かねてからの疑惑、中宮御産祈祷の怪なども、北条氏調伏ちょうぶくが、その目的であると共に、朝廷の触手が徐々に、それらの僧綱そうごうを抱き込みにかかっているものとは明白に分っていた。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがては安倍晴明以来の秘法という悪魔調伏ちょうぶくの祈りをも伝えらるるほどになった。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
李傕の陣中には、巫女みこがたくさんいた。みな重く用いられ、絶えず帷幕いばくに出入りして、なにか事あるごとに、祭壇に向って、いのりをしたり、調伏ちょうぶくの火を焚いたり、神降かみおろしなどして
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
与五郎 源氏調伏ちょうぶくの奇特をためさん為に、われわれに毒酒を盛りしか……。女の愛に心ひかされ、油断せしが一生の不覚……。さるにても、源氏に仇なす奴……。おのれ、そのままには……。
平家蟹 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その豊前の僧都そうずをはじめ、十二坊の優婆塞うばそくともがらが、かくては安からじと、この稲田の草庵を法敵と見なし、街道や諸郡へは、邪教を調伏ちょうぶくせよと、愚民をそそのかし、一方、板敷山いたじきやまには
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「きょうの祈祷は雨乞いでござりませぬ。調伏ちょうぶくの祈祷とみました。呪詛諸毒薬じゅそしょどくやく還着於本人げんぢゃくおほんにんと、み仏も説かれてある。そのような怖ろしい場所へ立ち寄るなどと思いも寄らぬことでござりまする」
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「臣の身がもし陛下の親しい国戚こくせきでなかったら、いかに胸にあることでも、決して口外はいたしません」と伏完はここに初めて、曹操そうそう調伏ちょうぶくの意中を帝に打明け、帝もまた、お心をうごかした。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこで即日、大赦たいしゃれいを発せられ、施薬せやく施粥せがゆの小屋を辻々におき、なおまた、かくは、臣洪信こうしんを遠くにおつかわしあって、当山の虚靖天師きょせいてんしに、病魔調伏ちょうぶくの祈りを、おん頼みあった次第である。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
祈祷きとうの衆僧と、信玄幕下の諸将も、伽藍がらんいっぱいに立ちこめる護摩のけむりの中に、いならんでいた。——そして時折鳴る敵国調伏ちょうぶくの鐘の音、誦経ずきょう諸声もろごえは、この烈石山雲峰寺のふもとまで聞えた。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
関東調伏ちょうぶく御願ぎょがん
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)