うかが)” の例文
なおも息を殺して怪しい女客の様子をうかがっていると驚いた。彼女の表情はみるみる変って、その顔は恐ろしく物凄くなって来た。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
ことに、太平洋方面に戦機をうかがっている筈の、帝国海軍の行動について、一行のニュースもないのを物足りなく思った。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
いつかこうしてやろうと機会をうかがっていたのだ、おまえは酒に酔っていた、ばかなやつだ、酔っていなければ人が違っていることぐらい、すぐにわかった筈だぞ
日本にも、櫛笥殿北山大原の領地で銃もて大牝猴をうかがうに、猴腹を示し合掌せしにかかわらず打ち殺し、そのたたりで煩い死んだと伝う(『新著聞集』報仇篇)。
かかる敵あって自分をうかがうとは一切御存じのない湯殿の中の美しい肉体は、もはやその危険が身に迫ったことをも一切お感じがなかったが、天成不思議な力で
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その白濁した光線の中をよろめきながら、Mの学生の三四人はわかれて車を降り、あとの二人だけは、ちょうどあいたかの女の前の席をうかがって、遠方の席から座を移して来た。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
あれほど賢い女が物忘れするはずはないから、——これはヒョッとしたら最初から石見銀山を懐へ入れて、折をうかがっていたんではあるまいかと思った、それが最初の疑いさ。
硝子張ガラスばりの障子を漏れる火影ほかげを受けているところは、家内やうちうかがう曲者かと怪まれる……ザワザワと庭の樹立こだちむ夜風の余りに顔を吹かれて、文三は慄然ぶるぶると身震をして起揚たちあが
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
前夜、馬方らと酒をのみながら、煙草たばこをふかしながら、卑猥ひわいな歌を歌いながら、彼は猫のようにうかがい数学家のように研究して、始終その見なれぬ男を観察していたのである。
毛沼博士は私達の背後で爛々たる執念の眼を輝やかして、復讐の機会をうかがっていたのです。
血液型殺人事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
すると、餌ものをうかが川獺かわうその眼差がちらりと水槽の硝子の向に閃いているのだった。
曲者 (新字新仮名) / 原民喜(著)
随分待合まちあい入りまでもしてかれらと提携する金儲けの機会をうかがっていた。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
けだし二人皆実務の才にあらず、兵を得る無し。子澄は海に航して兵を外洋にさんとしてはたさず。燕将劉保りゅうほ華聚かしゅうつい朝陽門ちょうようもんに至り、そなえ無きをうかがいて還りて報ず。燕王おおいに喜び、兵を整えて進む。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
……継母が畑へ出た留守をうかがうのであった。それでも老父は
贋物 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
永い間、私はすきうかがっている。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
奈翁ナポレオンの云い草ではないが、彼のうかがったもので、ついぞ彼の手に入らなかったものなんか一つもなかったぐらいだから、或いは頭脳の絶対的よさくらべをして見ると
ヒルミ夫人の冷蔵鞄 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
話せばきっとあかしを立てて呉れるだろう、……逢えさえすればと機会をうかがったが、それを知って避けるように、出ることの好きなおたまがまったく外へ姿を見せない
金五十両 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
月神チャンドラを従え雄鶏に化けて瞿曇の不在をうかがい、月神を門外に立たせ、自ら瞿曇に化け、入りてその妻と通じた処へ瞿曇帰り来れど月神これを知らず、瞿曇現場へ踏み込み
湯気の後ろから山国の女の肌目の荒い細かいをうかがっていそうなものだが、さていずれを見渡しても当時、この平湯には奴の姿が見えないのは抜かりだとは思われるが、あいつは本来
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ふさがっているのは表通りの右端の二区切りだけで、あとは古障子やらわらやら一ぱい散らかったまま空いている。それ等を踏んで子供が野球をやっている。空地をうかがうのは何国の子供も同じだ。
豆腐買い (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
私は署長の顔色をうかがいながら
血液型殺人事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
彼はまた暫く加久平の饒舌の切れ目をうかがったうえ、ようやくその機をとらえて訪問の目的を述べた。
百足ちがい (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
『書紀』二に豊玉姫とよたまひめ産む時夫彦火々出見尊ひこほほでみのみこと約にそむうかがいたもうと豊玉姫産にあたり竜にりあったと記されたが、異伝を挙げて〈時に豊玉姫八尋やひろ大熊鰐わに化為りて、匍匐逶虵もごよう。
そう遠くない物蔭から、辛抱づよく、あの細い眼で、じっとこっちをうかがっている。
夕靄の中 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
つねに機会をうかがい、また、つねにいろいろ策謀しております、郡境の争いとなると、とりあげようによっては公儀の問題になりますから、必ず老中へもちこむに違いありません、そうなると、酒井