蔭言かげごと)” の例文
始終蔭言かげごとばかり言っていた女房かみさん達、たまりかねて、ちと滝太郎をたしなめるようにと、ってから帰る母親に告げた事がある。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その人は非常の飲酒家さけのみでヒマラヤ山中の土民の中でも余程悪い博徒といったような男で、常に私に対して蔭言かげごとをいい、あれは英国の官吏である
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「君はまだ用があつたのではないか。つひ長居をして、人の蔭言かげごとまで言つてしまつた。」
魔睡 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
胸に屈託のあるそぶりはほとんど見えない。近所隣へいった時、たまに省作のうわさなど出たとておとよは色も動かしやしない。かえっておとよさんは薄情だねいなど蔭言かげごとを聞くくらいであった。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
自分妾狂めかけぐるいしながら息子むすこ傾城買けいせいがいせむる人心、あさましき中にも道理ありて、しちの所業たれ憎まぬ者なければ、酒のんで居ても彼奴きゃつ娘の血をうて居るわと蔭言かげごとされ、流石さすが奸物かんぶつ此処ここ面白からず
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
二心のある人を害する蔭言かげごとかわりに、わたしは
……村の口の、里の蔭言かげごと、目も心も真暗になりますと、先達せんだって頃から、神棚、仏壇の前に坐って、目を閉じて拝む時、そのたびに、こう俯向うつむく……と、もののしまが、我が膝が
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
榮燿ええうくらすやに相見あひみさふらふ、さるにても下男げなん下女げぢよどもの主人しゆじんあしざまにまをし、蔭言かげごとまをさぬいへとてはさらになく、また親子おやこ夫婦ふうふ相親あひしたしみ、上下しやうか和睦わぼくして家内かない波風なみかぜなく、平和へいわ目出度めでたきところはまれさふらふ
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)