蓋物ふたもの)” の例文
と中田千股という人が取次ぎますと、結構な蒔絵まきえのお台の上へ、錦手にしきでの結構な蓋物ふたものへ水飴を入れたのを、すうっと持って参り
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そこでお盆の上の蓋物ふたもののつまみを取って開けて見る。なんと貧弱なビスケットだ。なすった白の、薄紅の花模様を一つかじって、淋しいなとなる。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
行平ゆきひらなどは今も大時代おおじだいの形であります。蓋物ふたもので黒地に白の打刷毛うちばけを施したものがありますが、他の窯には見当らない特色を示します。大中小とあります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
おすみは酒のびんと、蓋物ふたものを持って土間の奥から出て来た。草履をつっかけているので、足音は聞えなかった。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
と、伝右衛門が、真面目にうけて、田作の蓋物ふたものを持って立ったので、二間とも、くずれるように笑った。
べんがら炬燵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
父の前には見なれた徳利と、塩辛しおからのはいった蓋物ふたものとが据えられて、父は器用な手酌で酒を飲んだ。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
火鉢には新しい藁灰わらばいなどが入れられて、机の端には猪口ちょく蓋物ふたものがおかれてあった。笹村は夜が更けると、ほんの三、四杯だけれど、時々酒を飲みたくなるのが癖であった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
鉄面皮なおいは、すこしばかり目が出ると、今戸の浜金の蓋物ふたものをぶるさげたりして、唐桟とうざんのすっきりしたみなりで、膝を細く、キリッと座って、かまぼこにうにをつけながら
私が突如寿司屋の店で差出した瀬戸九郎作織部の蓋物ふたものを一見しただけで、九郎あたりのものでしょうなど看破る鑑識の確かさを持つ茶人であるが、更に知人の言葉を加えると
現代能書批評 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
じいさんとこのは大きくて他家よその三倍もあるが、きが細かで、上手じょうずに紅入の宝袋たからぶくろなぞこさえてよこす。下田の金さんとこのは、あんは黒砂糖だが、手奇麗てぎれいで、小奇麗な蓋物ふたものに入れてよこす。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
私は配達になった年の暮に、この店で蓋物ふたものを八拾箇ほど求めて、お得意に配った。
安い頭 (新字新仮名) / 小山清(著)
なほ、あるはかからは漆器しつきでつくつた化粧箱けしようばこて、そのはこなかにはべに白粉おしろいれたちひさな蓋物ふたものれてありましたが、そのころひとも、かういふ道具どうぐでお化粧けしようをしたことがわかります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
丼や蓋物ふたものを持った面々が四列つなぎになって並んでいるのを、かきわけるようにして前へ泳ぎだし、番衆に押しもどされてすごすご後列へもどって行くが、すぐまた出てきて逆上したように、お氷を
顎十郎捕物帳:08 氷献上 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
どうも……一寸ちょっとも通じねえのはひどいな……それから菓子を入れる皿でも蓋が出来るような蓋物ふたものを持って来て、宜いかえ
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
蓋物ふたものの陶器をそこへ出した。開けてみると、醤油煮しょうゆにのごまめに赤い唐辛子とうがらしが入っていた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
常設された小店で色々なものが見つかる。蒸器むしき黒釉くろぐすり薬煎やくせん蓋物ふたもの、または大きな水甕みずがめなど、買わないわけにはゆかない。近くの窯やまた遠くは谷城あたりからも来るようである。
全羅紀行 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)