“蒸氣(ゆげ)” の例文
新字:蒸気
おつぎが忙(いそが)しくどさりと臼(うす)へ落(おと)したふかしからぼうつと白(しろ)い蒸氣(ゆげ)が立(た)つた。其(そ)の蒸氣(ゆげ)の中(なか)に月(つき)が一瞬間(しゆんかん)目(め)を蹙(しか)めて直(すぐ)につやゝかな姿(すがた)に成(な)つた。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
足下(きみ)の同情(どうじゃう)は多過(おほす)ぎる予(わし)の悲痛(かなしみ)に、只(たゞ)悲痛(かなしみ)を添(そ)へるばかり。戀(こひ)は溜息(ためいき)の蒸氣(ゆげ)に立(た)つ濃(こ)い煙(けむり)、激(げき)しては眼(め)の裡(うち)に火花(ひばな)を散(ち)らし、窮(きう)しては涙(なみだ)の雨(あめ)を以(もっ)て大海(おほうみ)の水量(みかさ)をも増(ま)す。
白(しろ)い蒸氣(ゆげ)が釜(かま)の蓋(ふた)から勢(いきほ)ひよく洩(も)れてやがて火(ひ)が引(ひ)かれてからおつぎは起(おこ)される。帯(おび)を締(しめ)た儘(まゝ)横(よこ)になつたおつぎは容易(ようい)に開(あ)かない目(め)をこすつて井戸端(ゐどばた)へ行(ゆ)く。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
蒸氣(ゆげ)の立(た)つ臼(うす)を勘次(かんじ)は暫(しばら)く杵(きね)の先(さき)で捏(こ)ねた。杵(きね)の先(さき)が粘(ねば)つて離(はな)れなく成(な)る。おつぎは米研桶(こめとぎをけ)へ水(みづ)を汲(く)んでそれへ浮(うか)べた杓子(しやくし)で杵(きね)の先(さき)を扱落(こきおと)して臼(うす)の中(なか)を丸(まる)い形(かたち)に直(なほ)す。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)