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蒸氣
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ゆげ
おつぎが
忙しくどさりと
臼へ
落したふかしからぼうつと
白い
蒸氣が
立つた。
其の
蒸氣の
中に
月が一
瞬間目を
蹙めて
直につやゝかな
姿に
成つた。
足下の
同情は
多過ぎる
予の
悲痛に、
只悲痛を
添へるばかり。
戀は
溜息の
蒸氣に
立つ
濃い
煙、
激しては
眼の
裡に
火花を
散らし、
窮しては
涙の
雨を
以て
大海の
水量をも
増す。
白い
蒸氣が
釜の
蓋から
勢ひよく
洩れてやがて
火が
引かれてからおつぎは
起される。
帯を
締た
儘横になつたおつぎは
容易に
開かない
目をこすつて
井戸端へ
行く。
蒸氣の
立つ
臼を
勘次は
暫く
杵の
先で
捏ねた。
杵の
先が
粘つて
離れなく
成る。おつぎは
米研桶へ
水を
汲んでそれへ
浮べた
杓子で
杵の
先を
扱落して
臼の
中を
丸い
形に
直す。