葭町よしちょう)” の例文
垂れを鳴らして、その駕が、葭町よしちょうの辻を斜めに切ると、すぐまた、辻燈籠と芽柳の間に、ひょいと、姿を見せた十八、九の若い武士が
雲霧閻魔帳 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
葭町よしちょうの「つぼ半」という待合の女将おかみで、名前は福田きぬ、年は三十そこそこの、どう見たって玄人くろうとあがりのシャンとした中年増なんです……
あやつり裁判 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
うごめくものの影はいよいよその数を増し、橋むこうの向井将監の邸の角から小網町こあみちょうよろいの渡し、茅場町の薬師やくしから日枝神社ひえじんじゃ葭町よしちょう口から住吉町すみよしちょう口と
顎十郎捕物帳:14 蕃拉布 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
葭町よしちょうの毛抜鮨とか、京橋の奴や緑鮨、数え立てたら芝にも神田にも名物は五ヶ所七ヶ処では利かないが、何といっても魚河岸のうの丸にとどめを差す。
残されたる江戸 (新字新仮名) / 柴田流星(著)
それのみならず去年の夏の末、お糸を葭町よしちょうへ送るため、待合まちあわした今戸いまどの橋から眺めたの大きなまるい円い月を思起おもいおこすと、もう舞台は舞台でなくなった。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その身葭町よしちょうで弘めをしてから、じみちに稼ぎ稼ぎ借金をなし崩し、およそ五年ばかりで身脱みぬけをした、その間に世話をするものがあって、自前になって御神燈を出したが
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ただその陋屋ろうおくに立派な物は、表の格子戸と二階の物置へあがる大階子はしごとであった。その格子戸は葭町よしちょうの芸妓屋の払うたものを二で買ったもので、階子はある料理屋の古であった。
死体の匂い (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
葭町よしちょうを廓の中心地とすると、人形町の名がどうやらわかってくる。人形屋もありはあったが、室町十軒店むろまちじっけんだなの方が有名でもあり、数も多い。ここの人形商はおやま商業あきないであったことがわかる。
父は又御輿みこしを拵えるのが好きであった。自分で屋根の反りなどを考え、生地で彫物をつけたものだ。御輿には桑名の諸戸清六という人から頼まれて拵えたものだの、葭町よしちょうの御輿などがある。
回想録 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
やっと葭町よしちょうから人形町の見えるところまで来たことに気がつくと、お宮は
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
お糸は今夜かねてから話のしてある葭町よしちょう芸者屋げいしゃやまで出掛けて相談をして来るという事で、その道中どうちゅうをば二人一緒に話しながら歩こうと約束したのである。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
葭町よしちょう万字屋まんじやにいる姉崎吉弥きちやといいまする。番屋のおじさん……後生おねがい——この木戸さえ通れば葭町の家へ帰れるんですから、そっと、通してくれませんか」
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
時の幕府に哀訴して葭町よしちょうの菊弥を初め、廓外の芸者を構うて貰い、江戸市中に三人とか七人とかしかお構いなしのシャを残さなかったなぞ、随分と睨まれたものであって
残されたる江戸 (新字新仮名) / 柴田流星(著)
しかも中洲なかずは開けたばかりですぐ近く、前の川の下である。橋をわたれば葭町よしちょう花柳場さかりばがあり、いんしんな人形町通りがあり、金のうなる問屋町にとりまかれて、うしろには柳橋がひかえている。
あの毛唐人奴けとうじんめ等、勝山のお嬢さん、今じゃあ柳屋の姉さんだ、それでも柳橋葭町よしちょうあたりで、今の田圃たんぼ源之助きのくにやだの、ぜんの田之助にているのさえ、何の不足があるか、お夏さんが通るのを見ると
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
路地の最も長くまた最も錯雑して、あたかも迷宮の観あるは葭町よしちょうの芸者家町であろう。路地の内に蔵造くらづくりの質屋もあれば有徳うとくな人の隠宅いんたくらしい板塀も見える。
柳橋か、葭町よしちょうかと行先を選んでいるうちに、内々勧めるものがあった。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
うちへは来ませんがね、この先の杵屋きねやさんにゃ毎日かよってますよ。もう葭町よしちょうへ出るんだっていいますがね……。」とお豊は何か考えるらしくことばを切った。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
葭町よしちょう房花家ふさはなやという家にいた小園こそのという女で御在ます。」
あぢさゐ (新字新仮名) / 永井荷風(著)