花車だし)” の例文
これに配するに山王祭さんのうまつり花車だしと花笠の行列をば坂と家屋の遠望に伴はせて眼のとどかんかぎり次第に遠く小さく描きいだせしものなり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そしてにぎやかなはやしの音につれて、シャン、シャンと鳴る金棒かなぼうの音、上手かみてから花車だしが押し出してきたかのように、花魁道中おいらんどうちゅうしてきた。
間諜座事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
軒堤燈のきぢょうちんがすうっとならんで、つくり桜花ばなや風鈴、さっき出た花車だしはもう駒形こまがたあたりを押していよう。木履ぽっくりの音、物売りの声、たいした人出だ。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
バルザックの花車だしは、急調子に、同時に些か粗忽に、様々の手に押されてわれわれの前に引き出されて来たのである。
バルザックに対する評価 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
町には、祭りの提灯ちょうちん花車だし、シャンギリの音が——そして空には赤とんぼが、江戸の秋を染めている澄んだ日だった。
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
若手の芸妓が綱をとって花車だしき出され、そのあとへ、先頭が吉野よしの太夫、殿しんがりが傘止めの下髪さげがみ姿の花人はなんど太夫、芸妓の数が三、四十人、太夫もおなじ位の人数
モルガンお雪 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
一丁ふえた三味線の音は益々景気づき、丁度牛が馬鹿囃しの響きに促されて、花車だしを挽くように、船も陽気な音曲の力に押されて、徐々しず/\と水上を進むように思われます。
幇間 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
夏祭の花車だし神輿みこしを取卷いてはやすやうに、仲居は團扇を叩いて驚嘆した。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
それはお城の足場をかけるとか、お祭りの花車だし小屋、また興行物の小屋掛けを専門にしている仕事師の仕事で、一種また別のものですから、その方へ相談をしたらよろしかろうというのでありました。
引き出だすぬさに牡丹の飾り花車だし
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
電車らは花車だしの亡霊のやうに
橋の上の自画像 (新字旧仮名) / 富永太郎(著)
花車だしの様だね」
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
そして、長浜祭りの花車だしのように、この拾いものを囲んで、その夜ばかりは、寧子の部屋で、あそかした。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この大きい絵看板をおおう屋根形の軒には、花車だしにつけるような造り花が美しく飾りつけてあった。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
だんだんといて来る三十番雉子町の花車だし、それに続いて踊り屋台と順に乗りくみ
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
社火しゃか行列(祝いの仮装行列)だの、鰲山ごうざん燈籠とうろうで飾った花車だし)の鼓楽こがくだの、いやもう、形容のしようもない。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この大きい絵看板ゑかんばんおほ屋根形やねがたのきには、花車だしにつけるやうなつくばなが美しく飾りつけてあつた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
神輿みこしのあとをまた花車だし囃子屋台はやしやたいがつづいて行くのであろう、太鼓、笛、ちゃんぎり、世間は浮いていた。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いずれも市井しせいの特色を描出えがきいだして興趣津々しん/\たるが中に鍬形蕙斎くわがたけいさいが祭礼の図に、若衆わかいしゅ大勢たいぜい夕立にあいて花車だしを路頭に捨て見物の男女もろともに狼狽疾走するさまを描きたるもの
夕立 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
とばかり、辻々に花車だし屋台を押し出し、ほりばたには踊りの輪を幾つも作って、城門がそこに見えながら、城門のうちに入るまでには、半刻はんときもかかったほどであった。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「その筈だなあ。皆御神輿よりも象の花車だしを挽く所を見やうてんだ。」
谷崎潤一郎氏の作品 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
年中品川へ網打ちにばかり出て、金をに、雑魚ざこをすくって、欣しがっているかと思うと、神田祭に、巨額な奉納金をして、花車だしの上で馬鹿踊りをやって、大得意な奴がある。
田崎草雲とその子 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「何か、お祭りの花車だしでもやって来るんですか」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)