胴忘どうわす)” の例文
いや、もない、彼處あすこつてる、貴女あなたとおはなしをするうちは、實際じつさい胴忘どうわすれに手紙てがみのことをわすれてました。……
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「ほんに、胴忘どうわすれをしておりまして——先刻二人連れのお侍衆が、お見えになりまして、是非お目にかかりたいと——」
三人の相馬大作 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
甲田が犯人だなどとは夢にも思わぬものだから、ついそれを胴忘どうわすれしていたが、彼は確に女みたいな内輪の歩き癖だ。
何者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
昨年の或夜、予の或友人、——実は久保田万太郎氏は何人かの友人と話してゐる時に「ああ大和にしあらましかば」を暗誦し、数行の後に胴忘どうわすれをした。
り性、き性、ムラ気、お日和ひより機嫌、胴忘どうわすれ、神経質、何々道楽、何々キチガイ、何々中毒、男あさり、女たらし、変態心理なぞの数を尽して百人が百人
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「そうだ、桐島さんだ、何時いつ胴忘どうわすれをしましてね、で、絹漉きぬごしは、ちりか何かになされるので」
黄灯 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
俺の処なぞは、朝出て晩方帰るまでは、嬶の奴め、亭主を胴忘どうわすれしてやがる。
中山七里 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
先日御逢いした時には、それを胴忘どうわすれして、写真ではなく実物のあなたに見覚えがある様に思い違えた訳なのです。
モノグラム (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そのほかしょうき性、ムラ気、お日和ひより機嫌、胴忘どうわすれ、神経質、何々道楽、何々キチガイ、何々中毒、変態心理なぞの数をつくして、出会う人ごとに、知るも知らぬも
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
西國船さいこくぶね難船なんせんにおいらが叔父的をぢき彌次郎兵衞やじろべゑ生命懸いのちがけ心願しんぐわん象頭山ざうづざんさけつたを、咽喉のどもとぎた胴忘どうわすれ、丸龜まるがめ旅籠はたご大物屋だいもつやくとや、茶袋ちやぶくろ土瓶どびん煮附につけ、とつぱこのおしる
大阪まで (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
知っていたのに何故間違ったことを教えたか。その時の不思議な心理状態は、今になってもまだよく分りませんが、恐らく胴忘どうわすれとでも云うのでしょうか。
赤い部屋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「何とかいったっけな。エート。胴忘どうわすれしちゃった。副院長の名前は……」
一足お先に (新字新仮名) / 夢野久作(著)
仮令分り切ったことを胴忘どうわすれしていても、或は話がとんちんかんになっても、人は少しも疑わず、却って彼の不幸な精神状態を、あわれんで呉れる始末でした。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
おかしいな……何とかいったっけが……ツイ今サッキまでハッキリと記憶おぼえていたんですが。……オカシイナ……ツイ胴忘どうわすれしちゃってチョット思い出せないんですが。エッ。何ですって……。
キチガイ地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
空目そらめをして、何事か胴忘どうわすれした人の様に、「なんだっけなあ、なんだっけなあ、なんだっけなあ」と呟いた。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
分り切ったことをふと忘れて、どうしても思い出せない、俗に胴忘どうわすれという事があるね。あれが決して偶然でないというのだ。忘れるという以上は、必ずそこに理由がある。
疑惑 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
彼は、さっき毒薬を垂らす時、あとで見失っては大変だと思って、その栓を態々わざわざポケットへしまって置いたのですが、それを胴忘どうわすれして了って瓶丈け下へ落して来たものと見えます。
屋根裏の散歩者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「じゃ云って御覧。何といったっけな。伯父さんは胴忘どうわすれしてしまったんだよ。さあ云って御覧。ホラ、そうすれば、このお陽さまの様に美しいチョコレートの罐がお前のものになるんだよ」
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
彼は激情の余り、ついそれを胴忘どうわすれしていたのだ。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)