肱掛窓ひじかけまど)” の例文
肱掛窓ひじかけまどから外を見れば、高野槙の枝の間から、さわやかな朝風に、微かに揺れている柳の糸と、その向うの池一面に茂っているはすの葉とが見える。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
入側いりがわ付きで折曲おりまがって十二畳敷であります、肱掛窓ひじかけまどで谷川が見下みおろせる様になって、山を前にしてい景色でございます。
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
と酒井の呑さしを取って、いそいそ立って、開けてある肱掛窓ひじかけまどから、暗い雨落へ、ざぶりとかえすと、斜めに見返って
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その頃この辺の矢場の奥座敷に昼遊びせし時肱掛窓ひじかけまどそばに置きたる盃洗はいせんの水にいかなるはづみにや屋根を蔽ふ老樹の梢を越して、夕日に染みたる空の色の映りたるを
葡萄棚 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
渋皮のむけた二十二三の女中が、半分繰り出されてあった板戸を開けて、肱掛窓ひじかけまど手摺てすりや何かを拭いていた。水のうえには舟の往来もあって、庸三は来てよかったと思った。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
お玉の家では、越して来た時掛け替えた青簾あおすだれの、色のめるひまのないのが、肱掛窓ひじかけまどの竹格子の内側を、上から下まで透間すきまなく深くとざしている。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
かぶりったので、すっと立って、背後うしろ肱掛窓ひじかけまどを開けると、辛うじて、雨落だけのすきを残して、いかめしい、忍返しのある、しかも真新まあたらしい黒板塀が見える。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
花物を置くによろしい肱掛窓ひじかけまどもあって、白いカーテンにいつも風がそよいでいた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
向直った顔が、斜めに白い、その豌豆えんどうの花に面した時、眉を開いて、じった。が、瞳を返して、右手めてに高い肱掛窓ひじかけまどの、障子の閉ったままなのをきっ見遣みやった。
妖術 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
岡田は待ち兼ねたようにそれを受け取って、穿いていた下駄を脱ぎ棄てて、肱掛窓ひじかけまどへ片足を掛けた。体操は彼の長技である。左の手はもう庇の腕木を握っている。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
池を背後うしろ肱掛窓ひじかけまどに、疲れたように腰を懸ける、と同じ処に、ひじをついて、呆気あっけに取られた一帆と、フト顔を合せて、恥じたる色して、扇子をそのまま、横にそむいて
妖術 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
むきの二階の肱掛窓ひじかけまどを開けて、立ちもやらず、坐りもあえず、あの峰へ、と山に向って、ひざを宙に水を見ると、肱の下なる、廂屋根ひさしやねの屋根板は、うろこのようにおののいて、——北国の習慣ならわし
絵本の春 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鉄の煙管きせるはいつも座右に、いまも持って、巻莨まきたばこ空缶あきかんの粉煙草をひねりながら、余りの事に、まだすきを見出さなかった、その煙管を片手に急いで立って、机の前の肱掛窓ひじかけまどの障子を開けると
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
惜気おしげなく真鍮しんちゅうの火鉢へ打撒ぶちまけると、横に肱掛窓ひじかけまどめいた低い障子が二枚、……其の紙のやぶれから一文字いちもんじに吹いた風に、又ぱっとしたのが鮮麗あざやか朱鷺色ときいろめた、あゝ、秋が深いと、火の気勢けはいしもむ。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
肱掛窓ひじかけまどの外が、すぐ庭で、池がある。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)