聳動しょうどう)” の例文
そうしてその結果は世にも目ざましき大量殺人事件となって世界の耳口を聳動しょうどうするであろうことは真に火を見るよりも明らかである。
火事教育 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
これはひどく人の耳目を聳動しょうどうした。尤もこれに驚かされたのは、ストロオガツセなる伯爵キルヒネツゲル家の邸の人々である。
むしろ慚愧ざんき傷心いたみが多く、誇る気もちなどは毛頭ないが、あの事件は、相当世間の耳目を聳動しょうどうして、うわさの波を天下に拡げているらしい。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なまじ金座などをうろついて、世間の耳目を聳動しょうどうさせるより、ほかの方で動きの取れぬ証拠を集め、一挙にして曲者を縛ろうというのでしょう。
装飾の目的に桶を選ぶとは変った思いつきであり、そして我々を驚かしたのは意匠、材料及び用途の聳動しょうどう的新奇さである。
松崎は法学博士の学位を持ち、もと木挽町こびきちょう辺にあった某省の高等官であったが、一時世間の耳目を聳動しょうどうさせた疑獄事件に連坐して刑罰を受けた。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
木下秀吉が明智を亡ぼし、信長の後をいで天下を処理した時のいきおいも万人の耳目を聳動しょうどうしたものであった。秀吉は当時こういうことをいい出した。
魔法修行者 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
どこへか姿を消してしまったという事が、轟氏殺害犯人の逮捕に引続いて各新聞に報道され、満都の好奇心を聳動しょうどうした。
二重心臓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
当時、ここで、三つや四つの人間の首が街頭にころがっていたからとて、それだけで人心を聳動しょうどうするには、人心そのものにもはや毛が生えている。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
これすなわち勝氏が特に外交の危機きき云々うんぬん絶叫ぜっきょうして、その声を大にし以て人の視聴しちょう聳動しょうどうせんとつとめたる所以ゆえんに非ざるか、ひそか測量そくりょうするところなれども
九 何しろ永い間、無事に退屈していた世界だから、この暗黒星の報道が達するや、人心が一時に聳動しょうどうした。
暗黒星 (新字新仮名) / シモン・ニューコム(著)
しかしこの平民的な苗字が自分の中心を聳動しょうどうして、過ぎ去った初恋の甘い記念を喚び起すことは争われない。
田舎 (新字新仮名) / マルセル・プレヴォー(著)
人間の一生のうちに、その人の一切の事情を、一撃のもとに転倒させるような重大な事件があり、社会においては、全社会を聳動しょうどうせしめるような大事件がある。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
が、天下の英才を集めて『国民之友』をにぎわすのを片時も怠らなかった蘇峰はこの間に二葉亭のツルゲーネフの飜訳を紙面に紹介して読書界の耳目を聳動しょうどうした。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
そう云う美しい女詩人が人を殺して獄に下ったのだから、当時世間の視聴を聳動しょうどうしたのも無理はない。
魚玄機 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
近時世間の耳目を聳動しょうどうせしめた水平運動なるものは、言うまでもなく一種の解放運動であります。
融和促進 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
その事件は長いあいだ強い聳動しょうどうをひき起したのであるが、それにともなうなぞは、本文の書かれかつ発表されたとき(一八四二年十一月)にはまだ未解決のままであった。
定めし一世の耳目を聳動しょうどうしたと同時に、彼等の喜ぶところと為らなかったであろうと想う。
現代の婦人に告ぐ (新字新仮名) / 大隈重信(著)
むしろ人心を聳動しょうどうせしめざらんことをこれ恐るるものの如く、即ち一は村落に貯蓄金を設け、市町に町会所を建て、積金をなさしめ、小民を安堵あんどせしむるが如き、漸進の保険策を採り
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
その風物習俗の奇異、耳目じもく聳動しょうどうせしむるに足るものなきにあらず。童幼聞きて楽しむべく、学者学びて蘊蓄うんちくを深からしむべし。これそもそも世界の冒険家が幾多の蹉跌さてつに屈せず、奮進する所以ゆえんなるか。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
四人目のトメイ次兵衛は金鍔きんつば次兵衛(又は次太夫とも云ふ)の名によつて当時天下を聳動しょうどうさせた人物で、神出鬼没を極め、切支丹伴天連の妖術使ひと信じられて、九州諸大名の軍勢数万人を飜弄した。
いたずらに手ぐすね引いて、目に見えない殺気そのものよりは、目に見える警戒ぶりに於て、かえって人気を聳動しょうどうせしめるような、心なき陣立てはしない。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
軍縮問題が一時国内の耳目を聳動しょうどうした。問題は一に国防の充実いかんにかかっている。陸海軍当局者が仮想敵国の襲来を予想して憂慮するのももっともな事である。
時事雑感 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
又は露西亜ロシアへの逃亡のためとかいったような風説が皆、御念の入った当てズッポーばかりで、天下を聳動しょうどうした私の脱獄の動機なるものが、実は他愛もないモノであった事を知っている人間は
キチガイ地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
しかしてほとんど俗耳を聳動しょうどうするがごとく明暢めいちょうに叫破したるは実にアダム・スミスその人にしてこの法則をば実行せしむるの作用を発明したるはゼームス・ワットその人なりといわざるべからず。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
この人の技巧と、艶麗な色彩は、衆目を聳動しょうどうさせるに充分であった。
というわけですから、盗賊も尋常一様の盗賊とは違い、土地の人気を聳動しょうどうさせるだけの価値はある。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
名士の家族であっただけにそのニュースは郷里の狭い世界の耳目じもく聳動しょうどうした。現代の海水浴場のように浜辺の人目が多かったら、こんな間違いはめったに起らなかったであろうと思われる。
海水浴 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
彼の同僚は、彼の威勢にあっせられて唯々いいたり、彼の下僚は、彼の意を迎合して倉皇そうこうたり、天下の民心は、彼が手剛てごわき仕打に聳動しょうどうせられて愕然がくぜんたり。彼は騎虎きこの勢に乗じて、印幡沼いんばぬま開鑿かいさくに着手せり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
翁にしてもし、元亀天正の昔に生をけていたならば、たしかに天下を聳動しょうどうしていたであろう。如何なる権威にも屈せず、如何なる勢力をも眼中にかない英傑児の名を、青史に垂れていたであろう。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
古来鳴動の歴史もずいぶん古いものでありましたが、土地が高峻にして人目に触るる機会が少なかったために、その鳴動も、浅間や磐梯のように、人を聳動しょうどうはせしめませんでした。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
一時人目を聳動しょうどうしたる寛政の改革も、今は全く荒廃せり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
それはさて置き、この際、右の運河説が、人心を聳動しょうどうしたのです。摂津、河内の農民は大挙して、その風聞の実現せざらんことを、歎願の名で湖辺の大名へ向って上申のために上って来たという。
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)