お雪が行って見ると、下の座敷を打抜いて、かれこれ五十人ほどの老若男女ろうにゃくなんにょが、輪を作って盛んに踊っているところでありました。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そこに住む老若男女ろうにゃくなんにょの数はかつて正確に計算せられたことがないと言うものもあるし、およそ二百万の人口はあろうと言うものもある。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
いや、後で世間の評判を聞きますと、その日そこに居合せた老若男女ろうにゃくなんにょは、大抵皆雲の中に黒竜の天へ昇る姿を見たと申す事でございました。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
土佐とさ御流罪ごるざいの時などは、七条から鳥羽とばまでお輿こしの通るお道筋には、老若男女ろうにゃくなんにょかきをつくって皆泣いてお見送りいたしたほどでございました。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
十四五人の老若男女ろうにゃくなんにょと、私を「蒸気河岸の先生」と知っているちびどもが、こっちを指さしたり、腹を押えたりしながら、有頂天になって笑っていた。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
老若男女ろうにゃくなんにょの別なく、罪人太郎兵衛の娘に現われたような作用があることを、知らなかったのは無理もない。
最後の一句 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
あわれ果敢はかない老若男女ろうにゃくなんにょが、見る夢も覚めた思いも、大方この日が照る世の中のことではあるまい。
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その計略成就して、数百里のあいだの老若男女ろうにゃくなんにょがみな集まった。そこで、紫やや黄の綾絹あやぎぬをもって幾重にも仏像をつつみ、拝む者があれば先ずその一重をいで見せる。
しかし、戦争きたれ、と待ちこがれている日本人が、老若男女ろうにゃくなんにょシコタマいるのには驚くのである。
武者ぶるい論 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
北どなり、水戸さまの中屋敷にむいた弥生町やよいちょうがわの通用門から、てんでにどんぶりや土瓶を持った老若男女ろうにゃくなんにょがあふれだし、四列ならびになってずっと根津権現ねづごんげんのほうまで続いている。
顎十郎捕物帳:08 氷献上 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
江戸歌舞伎えどかぶき荒事あらごとともに、八百八ちょう老若男女ろうにゃくなんにょが、得意中とくいちゅう得意とくいとするところであった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
笑声嬉々ききとしてここに起これば、歓呼怒罵どば乱れてかしこにわくというありさまで、売るもの買うもの、老若男女ろうにゃくなんにょ、いずれも忙しそうにおもしろそうにうれしそうに、駆けたり追ったりしている。
忘れえぬ人々 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
何事か知らんと一同足を止めて見ますると、向うから罪人が四五十人、獲物えもの々々をたずさえ、見るも恐ろしい姿で、四辺あたりに逃げまど老若男女ろうにゃくなんにょ打敲うちたゝくやら蹴飛けとばすやら、容易ならぬ様子であります。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
老若男女ろうにゃくなんにょを一人で兼ねているんでしょう」
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
なるほどそれらの写真を見ると、どこかトックらしい河童が一匹、老若男女ろうにゃくなんにょの河童の後ろにぼんやりと姿を現わしていました。
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
きいても気の滅入めいる事は、むかし大饑饉おおききんの年、近郷から、湯の煙を慕って、山谷さんこく這出はいでて来た老若男女ろうにゃくなんにょの、救われずに、菜色して餓死した骨を拾い集めて葬ったので、その塚に沿った松なればこそ
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何でも彼等が三人ながら、おん教を捨てるとなった時には、天主の何たるかをわきまえない見物の老若男女ろうにゃくなんにょさえも、ことごとく彼等を憎んだと云う。
おぎん (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
何——不自由とは思わねども、ただのう、殿たち、人間が無いに因って、時々来てはさらえてく……老若男女ろうにゃくなんにょの区別は無い。釣針にかかった勝負じゃ、緑の髪も、白髪しらがも、顔はいろいろの木偶でくの坊。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
日がるに従って、信者になる老若男女ろうにゃくなんにょも、追々数を増して参りましたが、そのまた信者になりますには、何でも水でかしらぬらすと云う、灌頂かんちょうめいた式があって、それを一度すまさない中は
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)