まとい)” の例文
に組のまとい持ちで大さんてえあにいがいたが、としはおれより三つも下だった、それがおめえてえした人間でよ、火事のときに纏を
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
まといがくる、梯子はしごがつづく、各組の火消ひけしが提燈をふりかざして続いてくる。見舞人が飛ぶ。とても大通りは通られはしない。
その頃、男の子の春の遊びというと、玩具おもちゃではまとい鳶口とびぐち、外の遊びでは竹馬に独楽こまなどであったが、第一は凧である。
凧の話 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
危え、と蔵の屋根から、結束した消防夫しごとしが一にん、棟はずれに乗出すようにして、四番組のまといを片手に絶叫する。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
顧みればいままでたいていの身にふりかかる災難の火の粉を常に真心まごころまといもて縦横無尽に振りしだいては、ひとつひとつそれを幸の景色にまで置き変えてきていた。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
組のまといが動いて行ったあとには、消防用の梯子はしごが続いた。革羽織かわばおり兜頭巾かぶとずきんの火事装束しょうぞくをした人たちはそれらの火消し人足を引きつれて半蔵らの目の前を通り過ぎた。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
なまじ足手まといがなくて反ってよかったとしても、相手の警備の行届いきとどいているのに驚いている頃は、巧妙に作られた罠に陥込おちこんで、免れようもなく羽搏はばたいていたのでした。
十字架観音 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
吉原の鳶職は四番組で、江戸の川柳せんりゅうに「浅草に過ぎたる物が二つあり、じゃまとい、加藤大留」
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
僕自身も幾分か火の手のまだ収まらないうちに、取り急いでまといを撤したような心持がする。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
冬は鳶口とびぐちまとい、これはやはり火事から縁を引いたものでしょう。四季を通じて行われたものは仮面めんです。今でもないことはありませんが、何処の玩具屋にも色々の面を売っていました。
我楽多玩具 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
消防夫ひけしとびといって、梯子はしご持ち、まとい持ちなどなかなか威勢のいものであるが、その頃は竜吐水りゅうどすいという不完全な消火機をもって水をはじき出すのがせきやまで、実際に火を消すという働きになると
店には大小の消火ポンプが並べられてありました。まといもあります。
おしゃれ童子 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「火事場のまとい」振られ通し、振られながら熱くなる
昔の言葉と悪口 (新字新仮名) / 三遊亭金馬(著)
鳥毛の御槍に、黒まとい
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
下町のまといは大概あつまって、ずっと大伝馬町から油町通りに列をひいて揃って梯子はしご乗りをする。それよりも大丸の年中行事は、諸国から出開帳でがいちょうの諸仏、諸神のお小休みだ。
九つ半時に、姫君を乗せたお輿こしは軍旅のごときいでたちの面々に前後をまもられながら、雨中の街道を通った。いかめしい鉄砲、まとい馬簾ばれんの陣立ては、ほとんど戦時に異ならなかった。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)