がすり)” の例文
アルトベルグさんは学者肌の中老の紳士で、私達が戸を排したときは、ちょうどお客のお婆さんに日本の紡績がすりを一尺ほど切って売っていた。
踊る地平線:05 白夜幻想曲 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
鄭寧ていねいに云つて再びこたへを促した。阿母さんは未だだまつてる。見ると、あきらにいさんの白地しろぢの薩摩がすり単衣ひとへすそを両手でつかんだ儘阿母さんは泣いて居る。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
手拭てぬぐいをあねさんかぶりに、久留米がすりの着物のすそから赤いゆもじの端を垂らしている若いお主婦さんや、齢頃の娘たちは、笑いをおさえるのが苦しくて
南方郵信 (新字新仮名) / 中村地平(著)
その時私は細かい十の字がすりついの大島のあわせ(これは友人の借り着であつた)に、お召の夏袴を穿いてゐた。
青春物語:02 青春物語 (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
お綱は声をしぼって、井の字がすりの娘を抱き戻したまま、よろよろと熊笹くまざさの中へ坐ってしまった。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
派手な大島がすりあわせに総絞りの兵古帯へこおび、荒い格子縞のハンチング、浅黄の羽二重の長襦袢ながじゅばんの裾がちらちらこぼれて見えて、その裾をちょっとつまみあげて坐ったものであるが、窓のそとの景色を
ダス・ゲマイネ (新字新仮名) / 太宰治(著)
じみな焦茶こげちゃの日傘をつぼめて、年の頃は三十近い奥様らしい品のいい婦人が門の戸を明けて内に這入はいった。髪は無造作に首筋へ落ちかかるように結び、井の字がすり金紗きんしゃあわせに、黒一ツ紋の夏羽織。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
松島はすらりとしたせ形で、上等の上布がすり錦紗きんしゃ兵児帯へこおびをしめ、本パナマの深い帽子で禿はげを隠し、白足袋たび雪踏穿せったばきという打份いでたちで、小菊や品子を堅気らしく作らせ、物聴山ものききやまとか水沢の観音とか
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
染めがすり、モスリン、銘仙絣、肩掛、手袋、などがあった。
窃む女 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
召物めしものは白い上布かたびらであらいがすりがありました。
大塚楠緒子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
く空も、どんよりと銀燻ぎんいぶしのようににぶく、もみや松や雑草の、しめッぽい暗緑色につつまれた山蔭——。そこにサメザメと泣いている女は、井の字がすりの着物をきていた。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と言ひ乍ら山田は渋々しぶ/″\二重まはしを脱いだ。下にはまがひの大島がすりの羽織と綿入わたいれとを揃へて着て居る。美奈子は挨拶もせずに下へりて行つた。執達吏は折革包をりかばんから書類と矢立やたてとを出した。
執達吏 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)