紙撚こより)” の例文
あの人はそれから、椅子に腰をかけて、抽斗ひきだしからきり紙撚こよりをとり出し、レター・ペーパーの隅っこに穴をあけてそれをつづりこんだ。
石婦石郎せきふせきろうもこの木の枝に紙撚こよりを結びつけて祈願すれば子宝を授かるとある。尤も片手で結ばないと御利益がないそうだから多少難行なんぎょうに属する。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
線香花火は硝石、硫黄、炭素の粉をよく混じて磨り合わせたもので、これを日本紙の紙撚こよりの先端に包み込んだものである。
線香花火 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
自ら楫を入れたのを急いだと解く人があるが、磊落らいらくな武蔵の別にそういうつもりも無く、紙撚こよりで襷にしたのと同じような心安さからであったのであろう。
巌流島 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
兵馬が寝ついたのを見て奇異なる武士は、また以前の座へ立戻り、何をしているのかと思えば、紙を裂いて、しきりに紙撚こよりをこしらえているのであります。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そして晩になると、その一合入りの徳利を紙撚こよりで縛って、行燈の火の上に吊るしておく。
安井夫人 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
なんでも紙撚こよりだったかわらきれだったか忘れたが、それでからだのほうぼうの寸法を計って、それから割り出して灸穴きゅうけつをきめるのであるが、とにかく脊柱せきちゅうのたぶん右側に上から下まで
自由画稿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
彼らはいったいどこで夏頃の不逞ふていさや憎々しいほどのすばしこさを失って来るのだろう。色は不鮮明にくろずんで、翅体したい萎縮いしゅくしている。汚い臓物で張り切っていた腹は紙撚こよりのようにせ細っている。
冬の蠅 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
うまく紙撚こよりをよれる人が少いので、広瀬先生や正木先生が、手伝ってくださる。僕たちの中では、砂岡君がうまくる。僕は「へえ、器用だね」と、感心して見ていた。もちろん僕には撚れない。
水の三日 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
むらもの自分じぶんかどからそれをのぞいた。棺桶くわんをけすわりがわる所爲せゐ途中とちうまずぐらり/\と動搖どうえうした。勘次かんじはそれでも羽織はおりはかま位牌ゐはいつた。それはみなりたので羽織はおりひもには紙撚こよりがつけてあつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
二人は紙撚こよりを拵えて䰗にして引いてみると、それが平太郎に当った。
魔王物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
伸子が朦朧状態で演奏している——ちょうど讃詠アンセムの二回目あたりで、彼女の眼前を、まるで水芸みずげい紙撚こより水みたいに、やいばの光がひらめき消えながら、横になり縦になりして、鎧通しが下降していったのだ。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
と言いながら米友は、松の木の下を離れて、そこらを探し廻り、裂けて落ち散っていた槍のさやを拾って、これを穂の上へかぶせ、紙撚こよりをこしらえて裂目さけめを結ぶ。
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
船の中であぐらをかきながら紙を取出して紙撚こよりを拵えて居たが出来上るとそれを襷として、羽織をすっぽり頭から冠って船中で又寝てしまった。敵の無い感じである。
巌流島 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
木村は高い山の一番上の書類を広げて、読んで見ては、小さい紙切れに糊板のりいたの上の糊を附けて張って、それに何やら書き入れている。紙切れは幾枚かを紙撚こよりつないで、机の横側に掛けてあるのである。
あそび (新字新仮名) / 森鴎外(著)
こう言ってしきりに室内を見廻して興がっていたのは、それは獄中で紙撚こよりをこしらえていた奇異なる武士、すなわち仮りの名を南条と呼ばれていた破牢者でありました。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
さし渡し三寸ばかりのおわんと思えば間違いございません、雁皮がんぴを細く切ってそれを紙撚こよりにこしらえ、それでキセルの筒を編むと同じように編み上げた品を本格と致しやす
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
このとき思い当るのは、手内職というてこの奇異なる武士が、暇にまかせてこしらえておいた紙撚こよりであります。その紙撚がここに梯子となって利用されているものとしか見えません。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
紙撚こよりをよってそれを綴じてしまって机の上へ置き
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)