算筆さんぴつ)” の例文
平太郎は知行ちぎょう二百石の側役そばやくで、算筆さんぴつに達した老人であったが、平生へいぜいの行状から推して見ても、うらみを受けるような人物では決してなかった。
或敵打の話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
本當ほんたうのこんだよ、おくさん。算筆さんぴつ出來できるものは、おれよりほかにねえんだからね。まつた非道ひどところにやちがひない」と眞面目まじめ細君さいくんこと首肯うけがつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ふさげない事になつてにもにもまぬかれぬ弊風へいふうといふのが時世ときよなりけりで今では極点きよくてんたつしたのだかみだけはいはつて奇麗きれいにする年紀としごろの娘がせつせと内職ないしよくの目も合はさぬ時は算筆さんぴつなり裁縫さいほうなり第一は起居たちゐなりに習熟しうじよくすべき時は五十仕上しあげた
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
ず爰に出入の者の内に古着渡世ふるぎとせいの者有りしが彼が周旋せわにて富澤町に甲州屋吉兵衞と云ふ古着渡世の者の次男じなんに千太郎と呼て當年二十歳になり器量きりやうと云ひ算筆さんぴつと云ひ殊に古着渡世なれば質屋にもちなみ有て申分なき若者成れば御當家の御養子やうしにせられては如何にやと相談さうだん有りけるに五兵衞は彼の持參金のなきより縁談えんだん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「本当のこんだよ、奥さん。読み書き算筆さんぴつのできるものは、おれよりほかにねえんだからね。全く非道ひどい所にゃ違ない」と真面目に細君の云う事を首肯うけがった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
古風な言葉で形容すれば、ただ算筆さんぴつに達者だという事の外に、大した学問も才幹もない彼が、今時の会社で、そう重宝がられるはずがないのに。——健三の心にはこんな疑問さえいた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)