箒目ほうきめ)” の例文
まして自分が、特権でもあるように、箒目ほうきめの立った清潔な広場を整理員に見まもられながらよこぎってゆく経験ももっていなかった。
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
「花も散ったが、お門辺かどべ箒目ほうきめ立って、いつもおきれい。部屋も縁も、艶々つやつやと明るう、御主人が留守とも見えぬ。……いや、陰膳かげぜんまで」
縁のそとは箒目ほうきめをみせたお庭土、ずウッと眼路めじはるかにお芝生がつづいて、木石ぼくせきの配合面白く、秋ながら、外光にはまだ残暑をしのばせる激しいものがある。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
誰にもしかられなかったが、若し私たちがその奥の門から更に寺の境内に侵入して、其処そこのいつも箒目ほうきめの見えるほど綺麗きれいに掃除されている松の木のまわりや、鐘楼の中
三つの挿話 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
まだ時刻が早過ぎるので、どうかと思ったが、見れば門前に、花を売る店が早くも戸を開いて、表の道の箒目ほうきめもあざやかですから、駒井はその花を売る店へ寄って
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そこにはきれいな箒目ほうきめを縦横にしるした白砂で埋まった四角な広い庭があり、それをとり囲んで二方にはすっきりとした廊下ろうかの半ば白い腰障子こししょうじが並んでいたのでした。
清めの塩花が道いっぱいにふりまかれて、ふたたび清らかに箒目ほうきめのたてられたお成り道へ
疎開をすすめても応じなかったのは、頑固な自負心によることだったが、門から玄関まで敷いた上り道の白砂には、空襲のあるような日でも、いつもキチンと箒目ほうきめがついていた。
我が家の楽園 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
狼籍ろうぜきたりし竹の皮も紙屑も何時いつの間にかはきられて、水うちたる煉瓦の赤きが上に、青海波せいかいはを描きたる箒目ほうきめあと清く、店の日除ひよけや、路ゆく人の浴衣ゆかたや、見るものことごとく白きが中へ
銀座の朝 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
けれども次第にれて来るとまだ見ぬ庭の木立の奥が何となく心を引くので、恐々こわごわながらも幾年か箒目ほうきめも入らずに朽敗した落葉を踏んでは、未知の国土を探究する冒険家のように
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
「今朝方箒目ほうきめをあてたと見え、地面も縁の上もならされている」
前記天満焼 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
庭は四方行き詰まりで新しい箒目ほうきめが並んで靴あとも何もない。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
旦那がやかましいから箒目ほうきめを入れておいたんです
辺りは庭のように箒目ほうきめが立っていて、「新免武蔵居士之塔」と仰がれる碑面の右の後ろ、木の間がくれに、阿蘇の噴煙が鮮やかに望まれる。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大晦日おおみそかの宵のうちに、きれいに掃いた箒目ほうきめが、まだ眠っている家々の門口に、そのまま浮いて、ほのかに白んでくる元日の光を徐々に迎えている。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
師直は先に立って、いつか清洒せいしゃな木の間の露地へ曲がっていた。おくに家があるのか、きれいに箒目ほうきめが立っている。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大地は箒目ほうきめさえ立ってきれいに掃いてあった。工事場はもう今朝の夜明けと同時に、工事場ではなくなっていた。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
また、石神井しゃくじい川へ墜ちた子や子守を、四度も救っていた。また、汚い物は人が寝ている間に、河原へ運んで焼いてくれるし、後はきれいに箒目ほうきめが立っていた。
下頭橋由来 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「はて。今朝はまた、いやにくまなく箒目ほうきめ立てて、きれいに掃ききよめてあるじゃないか」
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さては麓のほりの唐橋あたりまで、すべて視界に入るところを、夜明けまでにくまなく掃かせ、さらに、琵琶湖の砂をいちめんに敷かせて、果てなきまで、きれいに箒目ほうきめのあとを立てた。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
友松はやがていおの戸を押していた。この尼院を訪うごとにいつも感じるのは、常に箒目ほうきめのたててある平らかな庭土と、竹の葉ごしに屋のうちまで、清潔なひかりのしていることだった。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
誰が掃き清めたのやら、神社の境内は、きれいに箒目ほうきめすら見えていた。さしもの修羅しゅら狼藉ろうぜきのあとも掻き消され、そこに見えるのは寂とした中の蔦紅葉つたもみじと杉木立の青い仄暗ほのぐらさだけであった。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いちめんな敷き砂は、春の浦波のような箒目ほうきめを描いている。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
道路には足軽が指図して箒目ほうきめを立てている。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)