笈摺おいずる)” の例文
その声は、お雪に違いありませんが、その姿は、純白な笠に、純白の笈摺おいずるに、そうして銀のような柄杓ひしゃくを携えた巡礼姿であります。
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
笈摺おいずるを背負った六部であった。と、その側にたたずんでいた、博徒のような男が云った。「迫害されて成った狂人なのでしょうよ」
十二神貝十郎手柄話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
七、八けんさきの横町よこちょうから、地蔵行者じぞうぎょうじゃ菊村宮内きくむらくないが、れいの地蔵尊じぞうそん笈摺おいずる背負せおって、こっちへ向かってくるのが見える。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
足をわぬ様に何うか五足こしらえて呉れえとか、すげの笠を買うて来て、法達ほうたつに頼んで同行二人どうぎょうににんと書いて呉れえとか、それから白の脚半きゃはんも拵え笈摺おいずるも拵えたから
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
笈摺おいずる菅笠すげがさと言えば、きまった巡礼の扮装いでたちで、絵本のも、芝居で見るのも、実際と同じ姿でございます。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
笠ははね飛ばされて、月代さかやきの青い地頭が出ておりますが、白粉おしろいを塗って、引眉毛、眼張りまで入れ、手甲てっこう脚絆きゃはんから、笈摺おいずるまで、芝居の巡礼をそのまま、この上もない念入りの扮装こしらえです。
笈摺おいずるも古ぼけて、旅窶たびやつれのした風で、白の脚絆きゃはんほこりまぶれて狐色になっている。母の話で聞くと、順礼という者は行方知れずになった親兄弟や何かを尋ねて、国々を経巡へめぐって歩くものだと云う。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
巡礼というのは、まだ三十歳ばかりの女で、菅笠すげがさ手甲てっこう脚絆きゃはん笈摺おいずる、みなさっぱりしたみなりでしたが、胸に赤ん坊をだいていました。おずおずと庭にはいってきて、静かなひくい声でいいました。
山の別荘の少年 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
菊村宮内きくむらくないはおなじ日に、卜斎ぼくさいわかれをげ、花や供物くもつにかざられた笈摺おいずると、かがやく秋のにして、きのうのごとく、地蔵菩薩じぞうぼさつあいたびにたっていった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何ういう訳で白の脚半や笈摺おいずる柄杓ひしゃくを買ったのだの、大方巡礼にでも出る積りであろうが、何の願いが有って西国巡礼をするのじゃい、巡礼と云えば乞食同様で、野にし山に寝
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
笈摺おいずるをかけて、足はかいがいしく草鞋わらじで結んでいることに気がつき、そうして白羽二重の小袖の襟には深山竜胆みやまりんどうがさしてあることを、気がつくと、ああ、なるほど、なるほど、間違いはありません
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「それ見ろ、あまねく諸国をめぐる六部なら、肩に笈摺おいずるの痕が見えぬ筈はない。ははあ読めた。うぬは亀岡藩の諜者ちょうじゃだな。仮面めんを脱げッ、この馬鹿野郎めが!」
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かなり道中の雨露をしのいで来たと見られる手甲脚絆てっこうきゃはんをつけて、笈摺おいずるのようなちゃんちゃんこを着て、そうして、草鞋わらじがけで竹の杖をつき立てて、番台の下まで進んで来たのですが、どうしたものか
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
まっ黒になって茶店ちゃみせの入口になだれこみ、あッと宮内くないがあきれるうちに、床几しょうぎの上にすえておいた地蔵菩薩じぞうぼさつ笈摺おいずるを、ひとりの男が土足どそくでガラガラとけおとした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
第一は大菩薩峠の頂で猿と闘った時の笈摺おいずるの姿、第二は神尾の邸に侍女こしもとをしていた時の御守殿風ごしゅでんふう、第三はすなわち今、太夫ほどに派手はででなく、芸子げいこほどに地味じみでもない、華奢きゃしゃを好む京大阪の商家には
柄杓ひしゃく笈摺おいずる
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)