破目やぶれめ)” の例文
それで私は想当おもいあたってる事があるから昨日きのうお源さんの留守に障子の破目やぶれめからなかをちょいとのぞいて見たので御座いますよ。
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
畳はどんなか知らぬが、部屋一面に摩切すりきれた縁なしの薄縁うすべりを敷いて、ところどころ布片で、破目やぶれめが綴くってある。
世間師 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
何しろ、泣悲なきかなしむというは、一通りの事ではない。気にもなるし、案じられもする……また怪しくもあった。ですから、悪いが、そっと寄って、そこで障子の破目やぶれめから——
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私たち二人は三田通みたどおりに沿う外囲そとがこいどぶふち立止たちどまって何処か這入はいりいい処を見付けようと思ったが、板塀には少しも破目やぶれめがなく溝はまた広くてなかなか飛越せそうにも思われない。
待合のふすまの紙がかにのような形に破れているのを見付けるとのばした足の拇指を曲げて、くだん破目やぶれめ
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
霰……横の古襖の破目やぶれめで真暗な天井から、ぽっと燈明あかりが映ります。寒さにすくんで鼠も鳴かない、人ッ子の居ない二階の、階子段はしごだんの上へ、すっとその二人のおんなが立ちました。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
という時、二枚だてのその障子の引手の破目やぶれめから仇々あだあだしい目が二ツ、頬のあたりがほの見えた。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
見る/\うちに、べら/\と紙がげ、桟がされたやうに、ありのまゝで、障子がせると、羽目はめ破目やぶれめにまで其の光がみ込んだ、一坪の泉水をうしろに、立顕たちあらわれた婦人おんなの姿。
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
跣足はだしで田舎の、山近やまぢかな町の暗夜やみよ辿たど風情ふぜいが、雨戸の破目やぶれめ朦朧もうろうとしていて見えた。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのていは……薄汚れた青竹の太杖ふとづえを突いて、破目やぶれめの目立つ、蒼黒い道服をちゃくに及んで、せい高うのさばって、天上から瞰下みおろしながら、ひしゃげた腹から野良声を振絞って、道教うる仙人のように見えた。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
うてなを頂く日に二十を下らず、けだし、春寒き朝、めづらしき早起の折から、女形とともに道芝みちしばの霜を分けておほりの土手より得たるもの、根を掘らんとして、袂に火箸を忍ばせしを、羽織の袖の破目やぶれめより
草あやめ (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
法衣ころも破目やぶれめくゞらすごとく、ふところからいて、ポーンと投出なげだす。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)