まばたき)” の例文
女は薄紅うすあかくなった頬を上げて、ほそい手を額の前にかざしながら、不思議そうにまばたきをした。この女とこの文鳥とはおそらく同じ心持だろう。
文鳥 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
万田龍之助は、お染を振り返って「安心して待っておいで」と言わぬばかりのまばたきをして見せ、男に従って、元来た小路を戻りました。
大江戸黄金狂 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
黙ってまばたきでうなずいた目が消えると、たちまち井戸端へ飛んだと思う、総長屋の桝形形ますがたなりの空地へ水輪なりにキャキャと声が響いた。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
まばたき一つ出来ず、唾液一つ呑み込み得ないままに、その臙脂えんじ色の薄ぼけた頬から、青光りする珊瑚さんご色の唇のあたりを凝視していたのであった。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
貫一はまばたきてゐたり。宮は窮して彼に会釈さへかねつ。娘気の可羞はづかしさにかくあるとのみ思へる唯継は、ますます寄添ひつつ、舌怠したたるきまでにことばやはらげて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
刻一刻、見る間に色はせて、うす紫に変るころには、空もいつか藍色を増して暗く、中天に輝やく二、三の星は、明日も晴れぞと、互いにまばたきして知らせあっている。
白峰の麓 (新字新仮名) / 大下藤次郎(著)
まばたきもせずに見詰めていると、やがて忽然として手に梭を持った気高い乙女の姿があらわれた。
秋の鬼怒沼 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
あまり長い間視凝めてゐると、眼が自然にまばたきする。すると忽ち空間が新しくなった。が、次の瞬間にはやはりもとの空間だった。私はもう大分長い間生きて、生活にも慣れて来たやうだった。
童話 (新字旧仮名) / 原民喜(著)
フォーシュルヴァン老人は妙なまばたきをした。
まばたきなんぞしないで聴け。
お母様も一心に、お父様の顔を見ておいでになりましたが、その大きな美しい眼で二度ほどパチパチとまばたきをされました。
押絵の奇蹟 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それでもまばたきもせずに、水際みずぎわまで浸った叔父さんの手首の動くのを待っていた。けれどもそれがなかなかに動かない。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
若い掏摸すり遣損やッそくなって、人中でつらたれながら、お助け、とまばたきするから、そこア男だ。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それからまばたき一つせずに、頭をソロソロと左右に傾けて、白いずくめの寝具と、かし流されたまま、枕の左右に乱れかかっている自分の髪毛かみのけを見た。
復讐 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
まばたきゆるさぬとっさの光を受けたその模様には長さの感じがあった。これは大きなうなぎだなと思った。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
……と思ううちに後頭部がチクチク痛み初めて、眼の前がグングン暗くなって来たので、二三度大きくまばたきをしてみた。
木魂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
心が存外たしかであるのに、眼だけがかすんでくる。いくらまばたきをしても駄目だ。湯の中にひとみけてるようだ。くしゃくしゃする。焦心じれったくなる。かんが起る。奮興ふんこうの度がはげしくなる。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
満場の人影が残らず消え失せてしまった後までもまだ揃って頬を硬ばらせたまままばたき一つせず、身動き一つしないまま一心に真紅の幕を凝視していた。
二重心臓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
吾輩は思わず、続け様に二三度まばたきをしたが、こいつは変だとまぶしいのを我慢してじっと光るものを見つめてやった。するとこの光りは机の上で動いている鏡から出るものだと云う事が分った。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そのこの世ならぬ美しさ……烈しい異様な情熱を籠めた眼の光りのもの凄さ……私はまばたき一つせずその顔を見上げた。
あやかしの鼓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
その小さい、紅い唇をムズムズと動かしながら、ソッと眼を見開いて、ちょうどその真横に立っている私の顔を見ると、パチリパチリと大きく二三度まばたきをした。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
拉甸ラテン人種式の頭の良さとを同時に持っているので御座いますが、それが又……あの通りウットリとしたまばたきのし方でもお察し出来ます通りに、どことなく北欧人種式の隠遁的な
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
女は又も二三度まばたきをした。微笑がストーン氏の頬を横切って消え失せた。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
今にも泣き出しそうにパチパチとまばたきをして見せた。
鉄鎚 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
女は二三度大きくまばたきをした。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)