瞠若どうじゃく)” の例文
さほど知れ切った事でも黙っていては顕われず、空しく欧米人をして発見発見と鼻を高からしめ、その後に瞠若どうじゃくたりでは詰まらぬ。
ロンのパリ音楽院の教授としての声名もすばらしいが、その演奏家としての腕前も、有髯ゆうぜん男子を瞠若どうじゃくたらしめるものがある。
あたかも欧州戦前のバルカンの如く、日露戦前の竜岩浦りゅうがんぽの如く、如何なる名外交家といえどしりえ瞠若どうじゃくたらしむるていの難解問題となっているのであるが
謡曲黒白談 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
? 茶釜ちゃがまでなく、這般この文福和尚ぶんぶくおしょう渋茶しぶちゃにあらぬ振舞ふるまい三十棒さんじゅうぼう、思わずしりえ瞠若どうじゃくとして、……ただ苦笑くしょうするある而已のみ……
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その労作の面で課せられる仕事の実質は、大の男を瞠若どうじゃくたらしめるだけのものなのである。科学主義工業の提唱者は、おおうところなく明言している。
火の如き勢いが剣の機先を制して、金吾の第一刀はあざやかに、日本左衛門をして瞠若どうじゃくたらしめましたが、かれもさるもの、敢て、その殺風に逆らわず
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
むかし筑前ちくぜんの国、太宰府だざいふの町に、白坂徳右衛門とくえもんとて代々酒屋を営み太宰府一の長者、その息女おらんの美形ならびなく、七つ八つのころから見る人すべて瞠若どうじゃく
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
日本語をくする事邦人に異らず、蘇山人そさんじん戯号ぎごうして俳句を吟じ小説をつづりては常にわれらをしりえ瞠若どうじゃくたらしめた才人である。故山こざんかえる時一句を残して曰く
貧窮ひんきゅう病弱びょうじゃく菲才ひさい双肩そうけんを圧し来って、ややもすれば我れをしてしりえに瞠若どうじゃくたらしめんとすといえども、我れあえて心裡の牙兵を叱咤しったして死戦することを恐れじ。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
六尺男児をしりへに瞠若どうじゃくたらしめた底の女子が追々増加して、三十五六年頃からは、各地女学校の団隊が追々富士登山を試みる様になったのは、まことに喜ばしい現象である。
女子霧ヶ峰登山記 (新字新仮名) / 島木赤彦(著)
あるいは革命の激流一瀉千里いっしゃせんり、彼らかえってその後に瞠若どうじゃくし、空しく前世界の遺物たることあり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
きず持つ身のたちまち萎縮して顔色を失い、人のしりえ瞠若どうじゃくとして卑屈慚愧ざんきの状を呈すること、日光に当てられたる土鼠もぐらの如くなるものに比すれば、また同日の論にあらざるなり。
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
顔を洗って、着物を着代えて、何代目かの管長候補は女の襟を直してやったり、女の帯をしめてやったり、熟練の妙をあらわして、二人の青道心をしりえに瞠若どうじゃくたらしめた。
勉強記 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
卑弥呼は首から勾玉まがたまをとりはずすと、瞠若どうじゃくとして彼女の顔を眺めている反耶の首に垂れ下げた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
当時アテーネ遊君の大親玉フリーネがエレウシスの大祭に髪をさばいておおうたばかりの露身の肌を日光に照らし、群衆瞠若どうじゃくとして開いた道を通って海に入り神を礼し
殊にそんな婦人の中でも、日本人の男性でも掌の痛さと、気合いの烈しさに辟易へきえきする大鼓を引き受けている人が居ると聞くに到っては、感心を通り越して瞠若どうじゃくの到りである。
能とは何か (新字新仮名) / 夢野久作(著)
おそらくは周さんのかねて考えていたよりさらに数層倍も素晴らしく眼前に展開されるのを見て、いまさらながら日本の不思議な力に瞠若どうじゃく驚歎したように私には見受けられた。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
自分というものが身にもっている容色と才智との全部を男と平等なあるいは男を瞠若どうじゃくたらしめる女として表現してゆこうとする意欲に熱烈で、その面には徹底的であったらしいけれども
女性の歴史の七十四年 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
瑰麗かいれいな風趣、摩天の大殿堂を見るごとき荘重雄渾さ、それらは吹込み後七、八年を経る古レコードであるにかかわらず、昨今の進歩した録音のレコードを瞠若どうじゃくたらしめるのは、演奏の優秀さは
すると、見渡す視野がばかに広茫と果もなくひろがつてゆくのに、その都度瞠若どうじゃくとして度胆を失つてしまふのだ。冬の広さを見てゐると、俺は俺の存在が消えてなくなるやうに感じるものだから……
この同音は、一車を瞠若どうじゃくたらしめた。
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ところがこの牧師も瞠若どうじゃくと尻餅をかにゃならぬ珍報が一八六二年の諸新聞紙に出た。
いったいここの藩祖政宗まさむね公というのは、ちょっとハイカラなところのあった人物らしく、慶長十八年すでに支倉はせくら六右衛門常長を特使としてローマに派遣して他藩の保守退嬰派たいえいは瞠若どうじゃくさせたりなどして
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
しかも、思わず瞠若どうじゃくしてしまうくらいの美しいひとであった。
女神 (新字新仮名) / 太宰治(著)