相搏あいう)” の例文
艱苦かんくったすぐ後には、艱苦以上の快味がある。苦と快と、生きてゆく人間には、朝に夕に刻々に、たえず二つの波が相搏あいうっている。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
八五郎の叱咤しったと、やいばと十手の相搏あいうつ音が、明るい真昼の空気に、ジーンと響きます。平次を先頭に皆んな飛んで行きました。
仲の悪い二人を一室に会わせて仲が直れば宜いが、却て何かの間違から角立かどだった日には、両虎一澗いっかんに会うので、相搏あいうたんずばまざるの勢である。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
本所鈴川の化物屋敷が刀影下に没して、冷雨のなかを白刃相搏あいうつ血戦の場と化しさったころ。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
肉と肉とが、相搏あいうつ音が、風雨の音にもまぎれず、すさまじい音を立てた。身体と身体とが、打ち合う音、筋肉と筋肉とが、きしみ合う音、それは風雨の争いにも、負けないほどに恐ろしかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
ドタッ、と筋肉の相搏あいうつ音がきこえました。——しかしそのとき
彼は神人と相搏あいうつような態度で、ほとんど必死に書きつづけた。
戯作三昧 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
藤の根に猫蛇びょうだ相搏あいう妖々ようよう
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
相搏あいう叫喚きょうかんと宵の血戦を余儀なくされたが、やがて遠く官軍を追いしりぞけ、同勢ことごとく、白龍廟のほとりから船上へ乗り移った。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たとえば一箇のけもの相搏あいうって之を獲ようとして居る間に、四方から出て来た獣に脚をまれ腹を咬まれ肩をつかみ裂かれ背を攫み裂かれて倒れたようなものである。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
しかし、ふたりの間隔は、相搏あいうった一瞬に、おそろしく遠退とおのいていた。長槍と長槍とでも届かないくらいな間隔にわかれていたのである。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その烈しさは、見る者のきもをちぢめさせた。まさに猛鷲もうしゅうと猛鷲とが、相搏あいうって、肉をみあい、雲に叫び合うようだった。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が一瞬に、二つの体は相搏あいうッてりあっていた。燕青の仕掛けがいて、さしもの任原も腰をちょっと浮かせたらしい。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
広きへ殺出さっしゅつした城兵と、押太鼓を打って、狭きへ迫り会った寄手とが、喊声かんせいをあげ、奔馬ほんばを駈け合わせ、はやくも狂瀾怒濤の相搏あいうつ状をえがき出した。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
りつ奪られつ、南へ生き出ようとする生命と、北方へ伸び振わんとする生命とが、峡門に激しあう奔流にも似て、数度の血戦に相搏あいうって来たものであった。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
両大国を相搏あいうたせて、その力を相殺させ、わが内容を拡充する。真の大策を行うのはそれからでしょう
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すばらしい生命力と生命力の相搏あいうそうは魔王と獣王の咆哮ほうこうし合うにも似ていた。またそれはこの世のどんな生物いきものの美しさも語るに足りない壮絶なる「美」でもあった。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
相搏あいうつ味方の咆哮ほうこうは、さるこく(午後四時)からとり下刻げこく(七時頃)までつづいた。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
つまり、報道される地域が拡まってゆくすがたと、それを知ることによって次々に起って来る地方の新しき事件とが、相搏あいうち、相称あいとなえ、一波万波のしぶきをいよいよ人心に駆りたてるからである。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
きのう北越ほくえつに上杉勢と相搏あいうっていたかと思えば、たちまち伊勢いせの一を討ち、また返って、江州ごうしゅうの浅井をほふり、転じて朝倉を亡ぼし、更に叡山えいざんへ火の手をかけているという疾風迅雷しっぷうじんらいぶりである。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
日頃、彼が家中の子弟にもいっていたことばを、彼はいま、我とわが身に云い聞かせながら、馬上、槍を横たえて、怒濤どとうと怒濤の相搏あいうつごとき血戦の中を、悠々、少しずつ、粟津あわづの方へ進んでいた。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お互いのあらい呼吸は、しばし息と息だけで、相搏あいうッた。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まるで鷲と鷲とが相搏あいうッているすがたである。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
相搏あいう両軍りょうぐん
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)