皓々こうこう)” の例文
初夏の或晩、楽友館の広間に、皓々こうこうと電燈がかがやいて、多くの人々が集った。この頃よくある停年教授の慰労会が催されるのらしい。
或教授の退職の辞 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
「えい!」と叫んだのは紋十郎で、まばゆいばかりの光を放す明皓々こうこうたる十本の剣は、それと一緒に次々に右衛門目掛けて飛んで行く。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ぴちりと音がして皓々こうこうたる鏡は忽ち真二つに割れる。割れたるおもては再びぴちぴちと氷を砕くが如くこな微塵みじんになってしつの中に飛ぶ。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
因縁がなくてわが書斎にたたずむことの出来なかった四羽の鶴は、その生きた烈しさが日がくれかけても、昼のように皓々こうこうとして眼中にあった。
陶古の女人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
「積雪皓々こうこうとは雪が真白くということなの、雪はただ白いのよ、そら熱海の梅とおんなじに白いのよ、けど積るとそれが白いままに光るのよ。」
明暗 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
今夜は月が皓々こうこうとして蟻のうまで見えるような良夜でありましたのみならず、僅か三、四、五間とは隔っていないところの向う岸の澄まし返った人が
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
登れば白雪の峰皓々こうこうとしてそびえ、下れば青山峨々ががとして懸崖へ連なる。こけの細道を辿たどってゆけば、嵐に吹き散る松の雪は梅花のように難行軍の一行の上にふりかかる。
というときの声、期せずして、山をゆるがし、皓々こうこうたる刀林とうりんをどよませてきたのは、その途端だ。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
其処そこで一同は、互にいましめ合って、家を出てその提燈の行衛ゆくえを追うて行った。皓々こうこうとして、白雪に月の冴え渡った広野は、二里も三里も一目いちもくに見えるように薄青く明るかった。
北の冬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
宇野家から中秋名月の招待を取消して来たのはその翌々日のことであった、「雨になりそうだから」という理由であるが、当日は朝から晴れて終夜皓々こうこうたる名月が眺められた。
評釈勘忍記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
小さな通船かよいぶねは、胸の悩みに、身もだえするままに揺動ゆりうごいて、しおれつつ、乱れつつ、根を絶えた小船の花の面影は、昼の空とは世をかえて、皓々こうこうとしてしずくする月の露吸う力もない。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これは激烈なる颱風タイフーンの中心に無風地帯があり、そこだけは月が皓々こうこうと照って楽しげに鳥の舞っている現象をお考えになれば、皆様にもすぐお飲み込みになれることと思いますが
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
ころころと転げると右に左に追ひかけては大溝おほどぶの中へ蹴落して一人からからの高笑ひ、聞く者なくて天上のお月さまさも皓々こうこうと照したまふを寒いと言ふ事知らぬ身なればただここちよくさわやかにて
わかれ道 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
と云ったとたん、陶器師は立ち上がった、立った時にはもうその手に皓々こうこうたる白刃が握られていた。忽然起こる不思議な笑い! はっと飛び退しさった庄三郎。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
櫛は、ほんのりと体温であたためられて、それがかえって自分の体温ではあったが気味がわるかった。おあいは、うとうとした。遠蛙がやはり皓々こうこうと鳴いていた。
(新字新仮名) / 室生犀星(著)
月は天に皓々こうこうとして、ひさしを洩れて美濃と近江の境をくっきりとくまどっているが、月なんぞはどうでもよい。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
小さな通船かよいぶねは、胸の悩みに、身もだえするまゝに揺動ゆりうごいて、しおれつゝ、乱れつゝ、根を絶えた小船の花の面影おもかげは、昼の空とは世をかへて、皓々こうこうとしてしずくする月のつゆ吸ふ力もない。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
九月十三夜の月は、この太宰府の秋の夜空にも皓々こうこうえてはいるが、仰ぐ人の心には京で楽しく月を賞でた夜の思いが湧く。空を仰ぐ目が何時しか涙に曇れば、月もおぼろに定かでない。
皓々こうこうたる月明の下に、隊長の惨殺屍骸は、人のきたって一指を触るることを許さず、十字街頭に置き放されたままで、ほしいままに月光の射し照らすに任せてある。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
皓々こうこうたる半裸体! 腰から上を露わに見せ、妖艶に宗春に笑いかけている。烏組の頭領お紋である。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
もう、松並木には春の日がうららかに当り、皓々こうこうたる音すら冬ほどの厳しさがなくなりました。土手、小さい丘、原、小径こみち、そういうきれぎれの景色にすら、春はゆたかにしるされています。
玉章 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
三条の御所で高倉宮は、雲間にかくれ移る皓々こうこうたる月を眺めていた。
野茨やまきの葉や枝の隙から、崖下の谷川が眼の先に見え、そこに無邪気に水を浴びている、三人の女のこうの鳥のような、皓々こうこうと白い全裸体を、金粉のように降り注いでいる
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
皓々こうこうとした発光体のような、純白な生物が佇立ちょりつしていた。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)