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物寂
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ものさ
ふりがな文庫
“
物寂
(
ものさ
)” の例文
所は奈良で、
物寂
(
ものさ
)
びた春の宿に
梭
(
ひ
)
の音が聞えると云う光景が眼前に浮んで
飽
(
あ
)
く
迄
(
まで
)
これに
耽
(
ふけ
)
り得る
丈
(
だけ
)
の趣味を持って居ないと面白くない。
高浜虚子著『鶏頭』序
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
暖か味のない夢に
物寂
(
ものさ
)
びた夜を明かしけるが、お浪
暁天
(
あかつき
)
の鐘に眼覚めて猪之と一所に寝たる床よりそっと出づるも、朝風の寒いに火のないうちから起すまじ
五重塔
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
「冬近し」という切迫した語調に始まるこの句の影には、芭蕉に対する無限の思慕と
哀悼
(
あいとう
)
の情が含まれており、同時にまた芭蕉庵の
物寂
(
ものさ
)
びた風情が、よく景象的に描き
尽
(
つく
)
されている。
郷愁の詩人 与謝蕪村
(新字新仮名)
/
萩原朔太郎
(著)
車は
物寂
(
ものさ
)
びたるカムパニアの野を走りぬ。サン、ピエトロの寺塔は丘陵のあなたに隱れぬ。既にして我はモンテ、ソラクテの側を過ぎ、山を
踰
(
こ
)
えてネピの
市
(
まち
)
に入りぬ。明月は市の狹き
巷
(
ちまた
)
を照せり。
即興詩人
(旧字旧仮名)
/
ハンス・クリスチャン・アンデルセン
(著)
奥座敷にて多人数が笑語の声の断続して柱に響くも
物寂
(
ものさ
)
びぬ。
貧民倶楽部
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
▼ もっと見る
庵りというと
物寂
(
ものさ
)
びた感じがある。少なくとも
瀟洒
(
しょうしゃ
)
とか風流とかいう念と
伴
(
ともな
)
う。しかしカーライルの
庵
(
いおり
)
はそんな
脂
(
やに
)
っこい
華奢
(
きゃしゃ
)
なものではない。
カーライル博物館
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
言うまでも無く
物寂
(
ものさ
)
びた地だが、それでも近い村々に比べればまだしもよい方で、前に
挙
(
あ
)
げた川上の二三ヶ村はいうに
及
(
およ
)
ばず、
此村
(
これ
)
から川下に当る数ヶ村も皆この村には勝らないので
雁坂越
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
若い木の芽や材木の
匂
(
にお
)
ひを
嗅
(
か
)
いでゐるのに、或る人は閑静の古雅を愛して、
物寂
(
ものさ
)
びた古池に魚の死体が浮いてるやうな、
芭蕉庵
(
ばしようあん
)
の
苔
(
こけ
)
むした庭にたたずみ、いつもその侘しい日影を見つめて居る。
田舎の時計他十二篇
(新字旧仮名)
/
萩原朔太郎
(著)
一抱
(
ひとかかえ
)
もある松ばかりが
遥
(
はるか
)
の
向
(
むこう
)
まで並んでいる下を、長方形の石で敷きつめた間から、短い草が
物寂
(
ものさ
)
びて生えている。靴の底が石に落ちて一歩ごとに鳴った。
満韓ところどころ
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
長頭丸が時〻
教
(
おしえ
)
を請うた頃は、公は京の
東福寺
(
とうふくじ
)
の門前の
乾亭院
(
かんていいん
)
という藪の中の朽ちかけた坊に
物寂
(
ものさ
)
びた朝夕を送っていて、毎朝〻
輪袈裟
(
わげさ
)
を掛け、印を結び、行法怠らず、朝廷長久、天下太平
魔法修行者
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
縞柄
(
しまがら
)
だの品物などは余のような無風流漢には残念ながら記述出来んが、色合だけはたしかに
華
(
はな
)
やかな者だ。こんな
物寂
(
ものさ
)
びた
境内
(
けいだい
)
に一分たりともいるべき性質のものでない。
趣味の遺伝
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
自分は三四分手帛を動かした
後
(
のち
)
、急に肌を入れた。山門の裏には
物寂
(
ものさ
)
びた小さい拝殿があった。よほど古い建物と見えて、軒に彫つけた獅子の頭などは絵の具が半分
剥
(
は
)
げかかっていた。
行人
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
私はそんなおっとりと
物寂
(
ものさ
)
びた空気の中で、古めかしい講釈というものをいろいろの人から聴いたのである。その中には、すととこ、のんのん、ずいずい、などという妙な言葉を使う男もいた。
硝子戸の中
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
余が
寂光院
(
じゃっこういん
)
の門を
潜
(
くぐ
)
って得た
情緒
(
じょうしょ
)
は、浮世を歩む年齢が逆行して
父母未生
(
ふもみしょう
)
以前に
溯
(
さかのぼ
)
ったと思うくらい、古い、
物寂
(
ものさ
)
びた、憐れの多い、捕えるほど
確
(
しか
)
とした
痕迹
(
こんせき
)
もなきまで、淡く消極的な情緒である。
趣味の遺伝
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
物
常用漢字
小3
部首:⽜
8画
寂
常用漢字
中学
部首:⼧
11画
“物”で始まる語句
物
物凄
物語
物憂
物識
物怪
物騒
物置
物音
物思