てて)” の例文
気にかかるので、後で探ると、娘は、それから十月目に、ててなし子を産んで土蔵部屋に産後を病んでいるという近所の者の噂だった。
雲霧閻魔帳 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いえなに! つまりまあ、ててなし児でございますよ——こうして大勢の男衆にまじっていますもんで——父なし児でございますよ。」
十八の年には洗張屋に奉公していたが、兄分に当るのが、寝物語に順吉の話を聞いて、「なんだ、それじゃ、お前、ててなし児じゃねえか。」
夕張の宿 (新字新仮名) / 小山清(著)
お米は名題なだいの淫奔娘で、すでに三人もててなし子を生み落して里子にだしており、この界隈からは然るべき聟をむかえることができない娘であった。
わたしは相手の知れないててなしを生んだ、手のつけられないみだらな女として、人の冷笑の中に葬られてしまわねばならないが、それよりも不幸なのは
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
あの時分のことを思いますとほんとうに惨めなもので、私たち母子おやこは、涙の乾くひまとてもありませんでした。学校へ行くと皆が私を『ててなし児』だといってなぶりものにします。
無駄骨 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
弥八 すべただ、大すべただ、ててなしッ子を生みやがって。茶屋女の癖にだらしのねえ。
一本刀土俵入 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
領事の帰った後で、お鈴がゴローを引きずりながら入ってきて、彼が蝶々さんの子供をてて無し子だと罵ったとおこります。蝶々さんは口惜しさの余り刀を持ち出して彼を追い出しました。
お蝶夫人 (新字新仮名) / 三浦環(著)
一九一四年ボンベイ板エントホヴェンの『グジャラット民俗記』五四頁にいわく、一説に帝釈瞿曇の妻に通じた時アンジャニ女帝釈を助けた故、瞿曇これを詛いてててなし子を生むべしという。
それでも生れた子が可愛かわいくはないかそなたがそんなに強情を張るならててなしを育てる訳には行かぬって縁組みがいやだとあれば可哀かわいそうでも嬰児ややこはどこぞへくれてやるより仕方がないがと子を
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
小學校に通ひ出す頃の、てて無しの女の子を一人連れてゐた。
続生活の探求 (旧字旧仮名) / 島木健作(著)
嬰児ややててなし児になろうぞ。早う行けっ」
老中の眼鏡 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
てて知らぬ子供生むとも…………
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
ててなし子になるのか?)
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
「寛之助——ててじゃ」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
「ウーム、これは名器だ。この笛を捨子に添えてあったといえば、そなたのてて母者人ははじゃひとも、およそ人がらがわかる気がする」
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なお、わたしがててなしを生んだというようなことが、仮りにでも本当でしたら、怖ろしいことではありませんか。わたしの罪も二重になり、わたしの不幸も二重になるではありませんか。
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「なるほど、あれは仏像だ。あの混血あいのこててなし娘は白痴で唖でつんぼだよ」
茂兵衛 (子守子に)なあ、その子、ててなしッ——。(いいかけてやめる)
一本刀土俵入 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
それっきりててなし児という言葉は口にしませんでした。
無駄骨 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
「さだめし、俺を、恨んでいるだろう。——せめて死ぬ前に、手をついて、娘へは詫びの一言、ててなし子の顔も一目」
雲霧閻魔帳 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「よろしいか。よく聞けよ。十数年という永い間、とまれ、将頼以下の、ててなし子、幾人も、あのように、無事、成人させて来たのは、たれの情けか」
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「女房に、これほど、云われたら、去り状以上だよ。馬鹿におしでないよ、独り者の女のうちもぐり込んで、てて無し子をあやしていれやあ世話はないや」
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
恫喝どうかつと暴力のもとに従わせ、そちは抱えている乳呑みのててなし子いとしさに、以来、心にもなく刑部のしいたげに耐えつつ、その子を養うて来たものとある……。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「はしゃぐ時は、よう、はしゃぐ癖にして。……やはりててなし子のせいよと、人様にいわれなどしたら、母はわびしぞえ。そなたを、ひがみッ子には、育てとうない」
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ほら、ほら、ほら。てて彼地あちから帰って見えた。父が見えたろ、父が——」
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「おめえの娘に。それからててなしに」
雲霧閻魔帳 (新字新仮名) / 吉川英治(著)