あぶ)” の例文
物をあぶるの能は夏日に如かざるが如きであるに關らず、猶春風春日は人をして無限の懷かしさを感ぜしむるやうなものである。
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
おっかさんがあぶって上げよう、)と、お絹は一世の思出おもいで知死期ちしごは不思議のいい目を見せて、たよたよとして火鉢にった。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
風早學士は、毎日林檎を一ツポケットへ入れて來て、晝餐の時には屹度きつと其の林檎の皮をいて喰ツてゐる。寒さの嚴しい日などは煖爐にあぶツて喰ツてゐることもあツた。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
膝とも談合という事があるから、まア着物でもあぶってあったけえ物でも喰いながらゆるりと話をするがい、慌てゝも仕様がねえ、己が屹度きっとお前の助かるようにして遣ったら宜かろう
又其暇に書房にて雪堂と小音せうおんにて浅間を語り、放言し、脚炉足をあぶり、床褥しやうじよくの上に在て茶菓を健啖し、誠に無上の歓楽、宇宙の内何の事か之にかむ、実に恐ろしき程の事、罰にても当らむかと
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
それよりも、徹夜の温習おさらいに、何よりか書入かきいれな夜半やはんの茶漬で忘れられぬ、大福めいた餡餅あんもあぶったなごりの、餅網が、わびしく破蓮やればすの形で畳に飛んだ。
霰ふる (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おかしきばかりかあわれに覚えて初対面からひざをくずして語る炬燵こたつあい宿やどの友もなき珠運しゅうんかすかなる埋火うずみびに脚をあぶり、つくねんとしてやぐらの上に首なげかけ、うつら/\となる所へ此方こなたをさして来る足音
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
れよりも、徹夜てつや温習おさらひに、なによりか書入かきいれな夜半やはん茶漬ちやづけわすれられぬ、大福だいふくめいた餡餅あんもあぶつたなごりの、餅網もちあみが、わびしく破蓮やればすかたちたゝみんだ。
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
親仁おやじはのそりと向直むきなおって、しわだらけの顔に一杯の日当り、桃の花に影がさしたその色に対して、打向うちむかうそのほうの屋根のいらかは、白昼青麦あおむぎあぶる空に高い。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
他に寒紅梅一枝の春をや探るならんと邪推なし、瞋恚しんいを燃す胸の炎は一段の熱を加えて、鉄火五躰をあぶるにぞ、美少年は最早数分時も得堪えたえずなりて
黒壁 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
格子戸外そとのその元気のいい声に、むっくり起きると、おっと来たりで、目はくぼんでいる……おでこをさきへ、門口かどぐちへ突出すと、顔色の青さをあぶられそうな、からりとした春たけなわな朝景色さ。
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)