火箭ひや)” の例文
美しき目より火箭ひやを放ちて人の胸を射るは、容易ならぬ事なれば許し難しと論告せしに、喝采の聲と倶に、花の雨は我頭上に降りそゝぎぬ。
それは火箭ひやであった……しかもかつて見たことのない新しいものだ。拇指おやゆびほどもある鉄の矢のさきに、火薬筒と油に浸した石綿が着けてある。
三十二刻 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
浜城をつつんだ高山右近長房たかやまうこんながふさや、中川藤兵衛の軍も、火箭ひや、鉄砲の豊富な新兵器の威力をつくし、忽ち、そこを焦土とした。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すると、応と答えた横蔵が、ばちを取り上げ、太鼓を連打すると、軍船を囲んだ小舟からは異様な喚声があがり、振り注ぐ火箭ひやが花火のように見えた。
紅毛傾城 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
夜間の花火は昼間程珍しくはなかったが、同様に目覚しかった。港の船舶は赤い提灯で飾られ、時々大きな火箭ひやが空中に打上げられて、水面に美しく反射した。
遂にその匣の蓋をひらくと、たちまちにひと筋の火箭ひやが飛び出して、むこう側の景徳廟の正殿の柱に立った。それから火を発して、殿宇も僧房もほとんど焼け尽くした。
明軍の大将軍砲、仏郎機フランク砲、霹靂へきれき砲、子母砲、火箭ひや等、城門を射撃する爆発の音は絶間もなく、焔烟は城内に満ちる有様であった。日本軍は壁に拠って突喊とっかんして来る明軍に鳥銃をあびせる。
碧蹄館の戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
べにと緑の光弾、円蓋えんがい火箭ひや、ああ、その銀光の投網とあみ傘下からかさおろし、爆裂し、奔流ほんりゅうし、分枝ぶんしし、交錯し、粉乱ふんらんし、重畳ちょうじょうし、傘下からかさおろし、傘下し、傘下し、八方に爛々らんらんとして一瞬にしてまた闇々あんあんたる、清秀とも
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
翌日から、寄手はまた、大呼たいこして城へ迫った。水を埋め、火箭ひや鉄砲をうちあびせ、軽兵はいかだに乗って、城壁へしがみついた。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
真直な、光の筋を残して、火箭ひやの如く舷から逃れ去る魚もあり、また混乱して戻って来るものもある。
そうしているうちに、さおに立ち上がってくる、山のようなうねりが押し寄せたと見る間に、その渓谷から尾を引いて、最初の火箭ひやが、まっしぐらに軍船をめがけて飛びかかった。
紅毛傾城 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
破れた荒筵のあいだから黄金こがね火箭ひやのような強い光りを幾すじも込んだ。
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
城外の寄手は、火箭ひやを撃ちこみ、どてをくずし濠を埋め、また巨木をっていかだとなし、どうなることかわからない。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まず、無名の雪嶺を名づけた、P1峰を越えたのが始め、火箭ひやのように、細片の降りそそぐ氷河口の危難。峰は三十六、七、氷河は無数。まったく、この三月間の艱苦かんくは名状し難いものだった。
人外魔境:08 遊魂境 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
ドドドドッ……遠くで起った地鳴りと共に、味方の頭上には火箭ひや、石砲、薬砲の巨弾が、雨となって落ちて来る。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これが何百台となく、城壁の四方から迫ってきたのを見て、郝昭は立ちどころに、火箭ひやを備えて待っていた。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
糧食、弾薬は、日をって、欠乏しはじめ、二の丸の敵の浴びせてくる火箭ひやはのべつ火災を起し、防戦につくす兵力の大半も、消火に努めねばならなくなった。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
寄手は、三の丸に、また望楼ぼうろうを組んだ。そして目の下の二の丸へ、火箭ひや、鉄砲の雨をそそいだ。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
寄手は夜になると、間断なく、どこからともなく、火箭ひやを城内へ射込んでいた。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そうして頭上を通ッてゆく味方からの掩護えんご火箭ひやや矢叫びも、もう聞えず、あらゆる音震にも皮膚が無知覚になったとき、一つ一つの兵の顔は人間を脱して、眼と爪だけのものに変っていた。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
水をふくんだ縄ばたきを持った兵が近くに落ちた火箭ひやをすぐたたき消している。正成は歩いて、ひがし足場の松尾季綱すえつなと、西足場の神宮寺正師じんぐうじまさもろ、そのほかのるいへむかって、初めてこう号令した。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すでに宋朝そうちょう末には、火箭ひや、石砲のほか、火薬による爆雷術なども発達しつつあったのか。ここに召出されて、即刻、征野へいそいで行った轟天雷ごうてんらい凌振りょうしんの軍隊をみるに、その装備には驚目される。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「すわこそ」と、昼にもまして、弩弓や火箭ひやを射るかぎり射てきた。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
突然、峰谷も崩るるばかり石砲や火箭ひやの轟きがこだました。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)