しめ)” の例文
私は深い心に泣き乍ら幻想のかげに弱つた身体からだを労つてゆく、しめつた霧がそこにもここにも重い層をなして私の身辺を圧へつける。
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
咽喉のどしめしておいてから……」と、山西は一口飲んで、隣の食卓テーブル正宗まさむねびんを二三本並べているひげの黒い男を気にしながら
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それはこれからの自分にあり、ここぞ正成との勝負のしどころ! と介は説客の決意でひそかにその唇を歯でしめすのだった。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
太刀の目釘を叮嚀にしめしますと、まるで私には目もくれず、そっと河原を踏み分けながら、餌食えじきを覗う蜘蛛くものように、音もなく小屋の外へ忍びよりました。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
先頃米国の或る会社で如何いかなる気候に逢っても決してしめらないというビスケットを売出して大層な好評を得ました。しかるに日本へ輸入したものはぐに湿気しめりけを受けて柔くなっています。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
甚五衛門はこう云ったが、さすがに声はしめっていた。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
横に、笛を構えて、歌口うたくちしめしているお菊ちゃんの形が、優雅で、厳粛げんしゅくで、斧四郎も露八も芸妓たちも、れとひとみを彼女の顔にあつめていた。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ただ幽かに薄明るい露のしめりがチラチラと夜光虫の漣波の如うに私歇的里ヒステリーの蒼い光をすべらし
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
若殿の声はしめっている。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
やはり秀八のずば抜けた緻容きりょうと、きゃんな辰巳肌のうちに、どことなく打ちしめっているやつれの美しさが、通船楼で見た時から受けたつよい魅力であった。
春の雁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
うちしめ石油色せきゆいろ陰影いんえいうちうすひかぎん引手ひきてのそばに
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
勃然ぼつねんと怒り心頭に燃えた松平の家臣竹中左次兵衛、君塚龍太郎その他覇気満溢はきまんいつの若侍輩は幕の蔭に潜んでひそかに鉢巻襷の用意をした上、大刀の目釘に熱いしめりをくれて
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しめやかに甘きしぶく。
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
此方こなたにあった大月玄蕃はそれと気づいたが悠然として、大刀の目釘にしめしをくれながらそれへ出て来た。そして作左衛門と三歩ばかりの間隔に立って傲然ごうぜん柄頭つかがしらを握りしめた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しめやかに、はなやかに
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
足拵あしごしらえは、もちろん、草鞋わらじ——すこししめしてあるかに見える。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しめる港の入日いりひ
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)