しげ)” の例文
草がからだをげて、パチパチったり、さらさら鳴ったりしました。霧がことしげくなって、着物きものはすっかりしめってしまいました。
種山ヶ原 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
しげくなって来た雨の音をきながら、心の穏やかでなかった庸三は、うとうと微睡まどろんだと思うと目がさめたりして、そこにわびしい一夜を過ごした。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
香のする花の咲き軟かな草のしげつて居る広野を愉快たのしげに遊行ゆきやうしたところ、水は大分に夏の初め故れたれど猶清らかに流れて岸を洗ふて居る大きな川に出逢いであふた
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
仮令たとい、晴天はなくとも、風静かにして雨しげき国は何処かにないであろうか。若しあれば、その国に移り住んで、僕は再び前世の蛙か田螺に還元かえる憧憬と勇気とを持ち合せている。
雨の日 (新字新仮名) / 辰野隆(著)
静かに立ちてあれば、わがそばなる桑の葉、玉蜀黍たうもろこしの葉は、月光げつくわうを浴びて青光あおびかりに光り、棕櫚しゆろはさや/\と月にさゝやく。虫のしげき草を踏めば、月影つきかげ爪先つまさきに散り行く。露のこぼるゝなり。
良夜 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
時に、残月、光ひややかに、白露は地にしげく、樹間を渡る冷風は既に暁の近きを告げていた。人々は最早、事の奇異を忘れ、粛然として、この詩人の薄倖はっこうを嘆じた。李徴の声は再び続ける。
山月記 (新字新仮名) / 中島敦(著)
然し概して言えば初冬の野の景色はしみじみと面白いものである。霜の色の蒼白あおじろさは雪よりもしげくて切ない趣がある。それとは反対に霜どけの土の色の深さは初夏の雨上りよりも快濶かいかつである。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
雲の如く胸に湧き、祈念の珠數にはふり落つる懷舊の涙のみしげし。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
雪解くるささやきしげ小笹原おざさはら
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
それはさっと琥珀から黄金にかわりまた新鮮しんせんみどりうつってまるで雨よりもしげって来るのでした。
マグノリアの木 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
かおりのする花の咲き軟らかな草のしげって居る広野ひろの愉快たのしげに遊行ゆぎょうしたところ、水は大分に夏の初めゆえれたれどなお清らかに流れて岸を洗うて居る大きな川に出で逢うた
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
お島がたのしみにして世話をしていた植木畠や花圃はなばたの床に、霜が段々しげくなって、吹曝ふきさらしの一軒家の軒や羽目板に、或時は寒い山颪やまおろしが、すさまじく木葉を吹きつける冬が町を見舞う頃になると
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
春雨の音しげき中今我あり
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
霧がことにしげくなって、着物はすっかりしめってしまいました。
風の又三郎 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
霧が殊にしげくなって、着物はすっかりしめってしまひました。
種山ヶ原 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)