温和おとなし)” の例文
この時まで主人のあと温和おとなしいて来たのトムは、にわかに何を認めたか知らず、一声いっせい高く唸って飛鳥ひちょうの如くに駈け出した。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
売物と毛遂もうすいふくろきりずっと突っ込んでこなし廻るをわれから悪党と名告なのる悪党もあるまいと俊雄がどこかおもかげに残る温和おとなし振りへ目をつけてうかと口車へ腰を
かくれんぼ (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
それとちがいお宅のおうちさんぐらいの温和おとなしい方を私は未だ見た事がありません、第一信心者しん/″\しゃでげす
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ジルベールは二十一二の温和おとなしそうな容貌、見るからに華奢な、そして活気のある青年であったが、ボーシュレーの方は丈の短い、髪毛かみげのちぢれた、蒼い顔に凄みのある男であった。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
「何んだ、親分も知つて居るんですか、嫁の親の二葉屋安兵衞が、四方屋の息子の徳太郎の温和おとなしいところに惚れ込んで、持參金三百兩、人橋をけて、無理に貰はせたといふことで——」
銭形平次捕物控:260 女臼 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
肇さんはかう云ツて、温和おとなしい微笑を浮かべ乍ら、楠野君の顔を覗き込んだ。
漂泊 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
宅へお梵妻だいこくさんがいらっしたのよ、あのお梵妻だいこくさん、祭司長のキリール神父の奥さんがですよ、それでどうしたとお思いになって? あの温和おとなしそうな風来坊が一体どんな男だったとお思いになって?
喰居くひゐるに越前守殿どうだ三吉其方の年は幾歳いくつになると聞れけるに三吉は早少し馴染なじみつきさまにてハイ私は當年十歳になりますと答へければオヽ十歳になるかよくこたへが分る至極しごく温和おとなしい奴ぢやいま尋ねる事を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そのうめ合せにはこれまで秋元の婢共おんなどもは、貞之進の物数を言わぬことを、気心が知れぬと内実んで居たが、その頃から単に温和おとなしい方と言改めて、羽織のえりの返らないのを
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
わっちさ、扮装なりこしらえるね此様こん扮装いでたちじゃアいけないが結城紬ゆうきつむぎの茶の万筋まんすじの着物に上へ唐桟とうざんらんたつの通し襟の半※はんてん引掛ひっかけて白木しろきの三尺でもない、それよりの子は温和おとなしい方が好きですかねえ
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
大業おおぎょうな事を云うから、小瀧も此の茂之助を金の有る人と思いますと、容貌こがらも余り悪くはなし、年齢としは三十三で温和おとなしやかな人ゆえ、此の人にすがり付けば私の身の上も何うか成るだろうと云うと
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)