気稟きひん)” の例文
(文華殿の瀑布図ではない。陳宝琛ちんはうしん氏蔵の瀑布図である)が、気稟きひんの然らしむる所か頭のさがつた事を云へば、雲林の松に及ぶものはない。
支那の画 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
是等これらはおなじく、神経の雋鋭しゆんえいになつたための一つの証候であるが、これは気稟きひんに本づく方嚮はうかうの違ひであるとつていいだらう。
結核症 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
粗服だが、どこか気稟きひんの高い風が見える。髪から顎へ、紫の布を頭巾結びにたらりとつつみ、革袴、新しい草履、ゆったりした歩様ほようで行く。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
我々の聴き馴れたドイツ風の演奏に対する伊太利イタリー風の演奏の面白さと言うよりは、むしろこの人の音楽的気稟きひんの影響ではあるまいかと思う。
平一郎は冬子がやはり昔のように美しくて、気稟きひんがあって、荘厳で、淋しそうであるのにどんなに悦んだかしれない。
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
ただ芸術を解し得る気稟きひんを持つものは、たとい農夫といえども、それを受用する機会を持った、というまでである。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
武にも勝れ母に似て容姿も美しく天晴れ優美な若武士であったが、いわゆる詩人的気稟きひんとでも云おうか、憂鬱であってしかも快活、真面目であってしかも滑稽
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
どこか重々しく一流の気稟きひんをもっていた。わたしは写野さんに見てもらったことを喜んだ。そして信じた。
童子 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
増野氏は生前オマア・カイヤムやタゴオルの訳者として知られていたが、そんな飜訳よりも彼自身のものを書いた方がよかりそうに思われるほど、詩人の気稟きひんに富んだ男だった。
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)
気稟きひんのない絵を描く。但、口は達者で、大いにひとを飲んだ気なり。小生意気な男。
然りと雖、詩人も亦た故国に対する妙高の観念なきにあらず、邦国の区劃は彼に於てまでの事にはあるまじきが、その天賦の気稟きひんに於て、少くともその国民を代表する所なき能はず。
国民と思想 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
美貌びぼうであって気稟きひんがあり、叡智えいちであって冷たくない顔。そして高貴なにおいをもち、いわゆる白痴美はくちびでなく、花にも負けない人間の顔の美。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
このすばらしい表現は、優れた芸術家の全人格と、聡明さと、そして優れた気稟きひんとの賜物でなくてなんであろう。
どれもこれも土くさい百姓のように日けしているが、さすがにその態度や眼ざしには、老龍の子とも鳳凰ほうおうひなとも見える気稟きひんを備えていた。
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
シゲティーのヴァイオリンの特色は、その芸術的気稟きひんと、知的な良さである。古典の大曲に対する解釈の高雅さと、近代楽の小曲に対する理解と愛情とである。
総じて重々しい風采となり、そのうちに養われて来た剣の気稟きひんというものが、ようやく人格化して来たものと見てよかろう。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これはまた、忍剣の鉄杖より、龍太郎のはやわざより、一しゅべつな気稟きひんというもの、下郎大九郎は、すでに面色めんしょくもなく、ふるえあがって両手をついた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
炯々けいけいたる幕将たちの眼もとは源右衛門へそそがれた。霜鬢そうびん白き斎藤内蔵助くらのすけおもて、ほとんど仮面かとも見えるほど悲壮な気稟きひんをおびている左馬介光春さまのすけみつはるの顔。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
気稟きひんはまだ青年に劣らず、眉にも頬にも化粧をほどこし、きょうをはれと装ったのであるから、陪観ばいかんの外国人の群れ——耶蘇会ゼスイットの代表者などもみな驚目をみはって
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
蒲生がもう氏郷は座中第一の若年ではあるが家柄のゆかしさ天性の気稟きひん、どこか薫々くんくんたるものがある。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
腕よりは、気稟きひんである。弓勢ゆんぜいというよりは気魄きはくである。信長が射る矢は
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「文字にも、気稟きひんがみえる」
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)