母子ふたり)” の例文
崖の山藤が這い伸びて、欄の角柱すみばしらからひさしに花のすだれを見せ、そのつよい匂いに飽いた蜂が、時折、母子ふたりの机をおびやかした。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
閑話休題それはとにかく母子ふたり其處等そこらあるくと、いまつた、のお帳場ちやうばが、はしむかうの横町よこちやう一個ひとつあつた。無論むろん古道具屋ふるだうぐやなんです。
廓そだち (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
私が少しずつでも銭儲けする間は、そりやアどうにかかうにかして、母子ふたりがお粥でも啜つてるんだ。
磯馴松 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
といひかけてわらことばなにとしらねどおほどこしとはお情深なさけぶかことさぞかし可哀かあいさうのも御座ございませうとおもふことあればさつしもふか花子はなこ煙草たばこきらひときゝしがかたはら煙管きせるとりあげて一服いつぷくあわたゞしくおしやりつそれはもうさま/″\ツイ二日計前ふつかばかりまへのこと極貧ごくひん裏屋うらやもの難産なんざんくるしみましてあに手術しゆじゆつ母子ふたりとも安全あんぜんでは
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
母子ふたりをあいてに、ふた言三言、雑談しているうちだった。忙しげな足音や家臣の声を、廊の外において、あるじの高氏ひとりが
覚一はほっと四山しざんの冷気に顔を撫でられた。すぐ後ろへ、尼も寄りそって来ていたのである。動悸どうきのしずまるのを母子ふたりはひとつに聴きすましていた。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかしあのお方の位置は、あなたがたお母子ふたりのおかれた所とちがって、時乱と風雲の眼の中にいるのです。女の道も、お子との愛情も、あらしの外にいるわけにゆきません。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だが、母子ふたりには、しょせん、寝つかれはしなかった。——途中、藤夜叉と告げて風の如く消え去った者のささやきが「……あらぬ嘘か」「真実まことか」と、まだどこかでは迷われている。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「待て。ここはまだまだ母子ふたりを置けるような所ではない。そうだ、そちの手に預けておく。羅刹谷の元の家へ入れて、よう面倒を見てやるがいい。それに近傍は大和口の要所、兵も付けて」
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「え。あの母子ふたりが、恒良つねなが皇太子へ、琵琶をおきかせに上ったのか」
斟酌しんしゃくにおよばん。母子ふたりは従来どおり鎌倉におくとしよう」
あとは、我も知らない母子ふたりであった。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、母子ふたりをなだめて歩み出した。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)