横死おうし)” の例文
主君の一子、竹若ぎみの横死おうしは聞いていなくもない。だが、そのいたましい血汐を泥土にした場所がこの辺とはいま知ったのである。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かの時妾目前まのあたり、雄が横死おうしを見ながらに、これをたすけんともせざりしは、見下げ果てたる不貞の犬よと、思ひし獣もありつらんが。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
信長が横死おうしする。いちはやく秀吉が光秀を退治して天下は秀吉のものとなったが、同時に世人は家康を目して天下の副将軍というようになった。
家康 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
国王の横死おうしうわさおおはれて、レオニに近き漁師ハンスルが娘一人、おなじ時に溺れぬといふこと、問ふ人もなくてみぬ。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
「いや、とんだお邪魔いたしました。阿倍川町の父上様は重態ですよ。城弾三郎が横死おうしした上は、御遠慮には及びません。御見舞にいらっしゃい」
吉五郎が最後の一言はあながちに嚇しばかりでは無い、現に黒沼伝兵衛は目白の寺門前で怪しい横死おうしを遂げたのである。
半七捕物帳:69 白蝶怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
父鉄斎の横死おうしでもなく、乾坤けんこん二刀の争奪でもなく、死んでも! と自分に誓った諏訪栄三郎のおもざしだけだった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
もう一つの丸い自然石の表には、「三界之万霊」とあり、両側に、「飢死きし」「横死おうし」と彫ってある。年代が書いてないけれども、随分、古いものらしい。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
その時、その温泉に冬越しをしようという人々——それはあのいやなおばさんと、その男妾おとこめかけの浅吉との横死おうしを別としては、前巻以来に増しも減りもしない。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
柴田の横死おうしいたむよりも、むしろ痛快がっているらしい私語が、はじめはひそひそとであったが、しまいにはほとんど公然と、未亡人の眼の前で、ささやきはじめられた。
誰が何故彼を殺したか (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
それでテンゲーリンの臣下がいろいろの事をやったに付け込んで、その主人のテーモ・リンボチェにまでるいを及ぼして、遂に縲紲るいせつの中に横死おうしするに至らしめたのである。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
鬼か神に魅入みいられても、また人に置き捨てにされ、悪だくみなどでこうした目にあうことになった人でも、それは天命で死ぬのではない、横死おうしをすることになるのだから
源氏物語:55 手習 (新字新仮名) / 紫式部(著)
井伊大老の横死おうしは絶対の秘密とされただけに、来たるべき時勢の変革を予想させるかのような底気味の悪い沈黙が周囲を支配した。首級を挙げられた大老をよく言う人は少ない。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
もはや幾年となく来ないので、ようやく昔話となった。或は何処かでこの僧は横死おうしを遂げたのでないかと思われた。して再びこの僧が、この村に入って来るなどとは考えられなかった。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
どなたでも意外に思召おぼしめすか存じませぬが、外ならぬ呉一郎殿の実の母御ははごで、先年直方のうがたで不思議の横死おうしげられた千世子殿の事で御座います……さよう……これは誠にしからぬお話で
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
積悪の応報覿面てきめんの末をうれひてかざる直道が心のまなこは、無残にもうらみやいばつんざかれて、路上に横死おうしの恥をさらせる父が死顔の、犬にられ、泥にまみれて、古蓆ふるむしろの陰にまくらせるを、怪くも歴々まざまざと見て
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
彼女になんの不足があって、あるいは又なんの事情があって、突然にかかる横死おうしを遂げたのか、それが一種不可解の謎として世間をおどろかしたのであった。
深見夫人の死 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ただ一人しかない花形の女太夫が横死おうしとあっては、演劇囃子しばいばやしも幕開けのしようもない。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼の野心の限界は信長第一の家来ということで、その信長のあとをついで天下をという野望はなかった。たまたま信長が横死おうしして自然に道がひらかれたから天下を狙って動きだしたにすぎなかった。
家康 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
取り出して来て見ると、一日として何か起こっていない日はなかった。あの早川賢が横死おうしを遂げた際に、同じ運命を共にさせられたという不幸な少年一太のことなぞも、さかんに書き立ててあった。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ふだんから評判のよくない母子ではあったが、それでも近所の義理があるのと、もう一つにはお作の横死おうしが人々の同情をひいたとみえて、見送り人は案外に多いらしかった。
半七捕物帳:23 鬼娘 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
さらには越後の流刑先で横死おうしした畠山直宗や上杉重能の家来どももいることです。彼らが怨みをすてるとは思われません。……むしろここには、まだ千余のお味方は残っていること。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、横死おうしした五郎左衛門忠英の一子亀次郎には、そんな機会がなかった。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
黒沼伝兵衛が往来なかで訳のわからない横死おうしを遂げたなどと云うことが世間に洩れきこえると、あるいは家断絶というような大事になるかも知れないのであるから、迂闊うかつな返事をすることは出来ない。
半七捕物帳:69 白蝶怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そのことは、阿新丸くまわかまるも少年の鋭感で、もうさとっていたらしい。本間三郎が、阿新を都へ帰さないわけもそこに潜んでいた。——いま阿新を帰したら、日野資朝の横死おうしが一ぺんに都へ知れ渡ろう。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)