梨子なし)” の例文
そもそも病人というものは初めには柑子こうじとか、たちばな梨子なし、柿などの類を食べるけれども、後には僅にお粥をもって命をつなぐようになる。
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
きょうの果汁は西洋梨子なし。在来の日本の果物にはない繊細なかおりである。ふるい時代の人はこういう匂いを薬臭いといって嫌いもしたであろう。
胆石 (新字新仮名) / 中勘助(著)
何ぞと言葉をやわらげて聞けば、上等室の苅谷さんからこれを貴方へ、と差出す紙包あくれば梨子なし二つ。
東上記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
音が、かさかさと此方こなたに響いて、樹を抱いた半纏は、梨子なしを食ったけもののごとく、向顱巻むこうはちまきで葉を分ける。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
船筏ふないかだも浮橋も、見事に炎上してしまった。何で製したものか、梨子なしか桃のぐらいなまりをぽんぽんほうる。踏みつぶしても消えない。ばっと割れると油煙が立ち、大火傷をする。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
或時は大木倒すごとし。鍔本つばもとにきりこむ心得、西瓜きるごとし。梨子なしくふ口つき、三十六句みなやり句などといろいろにせめられはべるも、みな巧者の私意を思ひ破らせんのことばなり。
芭蕉雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
それにトマトや西瓜や、人の目をひく色濃い夏のくだものは大方場退ばひけになつて、淡々しい秋の果がボツ/\ならべられてある。水に流された梨子なしを大山に盛つて附木の札を立ててあつた。
茗荷畠 (新字旧仮名) / 真山青果(著)
己は梨子なしを一かついで歩き、幾籠売っても一両の金は儲からないのに、己に一両も小遣いを呉れられるような身の上に成ったは、御主人さまのお蔭だから、御主人を大事に思うなら
あきなひ仕つり候と申立るを大岡殿季節の商賣と云ふは何をうりて渡世に致候やと申されしかば夏はうり西瓜すゐくわもゝるゐあき梨子なしかきの類など商賣仕つると申せども自然おのづから言語ごんごにごるゆゑイヤ其方家内を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
かれはラムネに梨子なしを二個ほど手ずから皮をむいて食って、さて花茣蓙はなござの敷いてある木の陰の縁台を借りてあおむけに寝た。昨夜ほとんど眠られなかった疲労が出て、頭がぐらぐらした。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
やがて、遠からず団栗の果も色づいて、猪の肉を肥やす季節がくるのであらうなどゝ、まことにのんきなことを考へながら、峠のてつぺんの茶屋の縁台に梨子なしかじつて、四方の風景にながめ入つた。
たぬき汁 (新字旧仮名) / 佐藤垢石(著)
一昨日は御書を給はり、辱く奉存ぞんじたてまつり候。其節御恵贈の朝鮮産西洋種梨子なし、誠にやすらかにして美味、有難存候。彼の争議一件御筆にのせられ候由、以て当今社会の現況を知る事を得べく、楽しみ罷在まかりあり候。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
二人は食事をしまって、梨子なしいていた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
梨子なし煮方にかた 冬 第二百八十八 牛の脳味噌
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
林檎、夏蜜柑、梨子なし如何いかがですか。
工場細胞 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
かれはちょっと考えるようなふうをしたが、その中から二十銭銀貨を一つ出して、ラムネ二本の代七銭と、梨子なし二個の代三銭とのせんを婆さんからもらって、白銅を一つ茶代に置いた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
梨子なしこう 秋 第二百 菓物くだものの効
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)